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学長が聞く、学長に聞く―第11回―地域に生きる。地域を生かす。(後編)

保要 佳江さん(株式会社るうふ代表取締役/人文学部 国際コミュニケーション学科卒)×落合 一泰(学長)

前編では、アイルランドに長期留学した保要(ほよう)さんが地元・山梨県芦川町の地域活性に取り組むようになったきっかけや、後輩たちへのメッセージについて伺いました。後編では、会社のミッションに掲げる「比較を超える。」という言葉に込められた想いや今後の展望、多摩に根差す大学である明星大学についてのお考えを、じっくり語っていただきました。一人ひとりが自分の生き方を見つめる上でも、これからの時代を予測してみる上でも、とても興味深い内容です。

大切なことは、足元にある。

落合学長 保要さんの会社は、ミッション(使命)に「比較を超える。」という言葉を掲げています。何かと比べる世界から一歩踏み出せば、比較を超えた豊かさを感じられる、と。この言葉には、どういう想いが込められているのですか? 

保要さん 田舎の人って、ついつい東京と比べてしまうじゃないですか。東京を真似したようなものを作ったり、古民家のような田舎にしかない素敵なものにまったく目を向けなかったり。それって本当にもったいないことだと思うんです。その場所で存分に輝けること。何かと比べないで自分がいいと思うこと。そうしたことを追求して生きていったほうが幸せになれる。そう私自身感じてきました。この経験から、「比較を超える。」というミッションが生まれました。 

落合学長 大切なことは、あなたの足元にあるはず、と。保要さんの会社だけでなく、誰にとっても意味深い言葉ですね。このミッションを達成するために、今後手掛けていきたいことは何でしょうか? 

保要さん 今は山梨を中心に展開している古民家の宿ですが、これを全国に広げたいと思っています。空き家の問題だったり、過疎の問題だったり、同じような問題を抱えている地域は全国各地にあります。それこそ比較せずにそれぞれの地域の良さを大事にしながら、魅力的な宿をつくっていきたい。それから、自社の暖簾分け独立モデル制度を充実させたいと思っています。2、3年ウチで働いてノウハウを受け継いでもらい、一棟の主人になって、自分の家族や周辺の人たちを幸せにできるだけの稼ぎを得る。そんなサイクルを、田舎でも継続して生きていける仕組みとして確立させたいと取り組んでいるところです。 

落合学長 ミッション(使命)と現実(過疎)と一人ひとりの幸福の追求をつなげていく――。その新しいビジネスモデルは、世界にも通用するはずですね。 

保要さん 日本でベースができたら海外でもやりたいと思っています。さきほど、国際コミュニケーション学科でお世話になった毛利先生とお話ししてきたのですが、「日本に来て難民申請をされている方々の働き口がないので、暖簾分け独立モデルを利用すれば、そうした皆さんにも働いてもらうことができそうね」と、アドバイスをいただきました。そういう意味では、海外に出ていかなくても、日本にいる海外出身の方々と一緒にできることがあるかもしれません。実は国内でも、発達障害の方や親がいない養護施設の方を積極的に採用しているんです。困難を抱えていても、誰もが独立してちゃんと稼げるような形にしたいなと思って奮闘中です。 

古民家のある芦川町の風景

落合学長 いろいろな人の「幸せ」を追求するのをお手伝いしたいという強い想いが保要さんの原動力になっているんですね。人はそれぞれ道が違っていても、皆に「幸せ」を感じてほしい、と。じつは、本学がめざしている教育改革でも「幸せ」がキーワードなんです。この対談シリーズでもお話ししていますが、明星大学教育のイノベーションのカギは「学修者本位」という考え方です。学部学科の所定の科目は修得しなければいけないけれど、卒業を目指すプロセスはそれぞれ違っていていい。学生には学修プロセスを自分で管理してもらい、大学はキャリア教育・キャリア支援で、学生一人ひとりの幸せの追求を後押しする。大学にとって、学生・卒業生が幸せになること、それが一番ですからね。 

保要さん 一人ひとり目指す先は違うかもしれないけれど、みんなで協力しあうことが大事だと思います。 

落合学長 同感です。本学でも「Do It with Others」(人と一緒に)を学修のキーワードのひとつにしています。これからは、一人で解決できない問題を、専門分野を超えてみんなで解決していこうという時代です。その訓練のためにも、学部学科の専門性の違いを組み合わせる、キャンパスを出て学ぶなど、これまで以上の様々な取り組みを計画中です。

「るうふ」の仲間たちと

多摩に生きる大学として、できること。

落合学長 保要さんは、地域に深く関わりを持ち、留学やボランティアで広く世界にも目を向けてこられた方です。その保要さんにお聞きしたいことがあります。明星大学が根差す多摩地域を、どうとらえていますか? 

保要さん 多摩は私が生まれた場所です。大学時代には祖父母の家から通っていましたので、とても馴染み深い場所です。都心にもアクセスしやすく、自然も豊かでとてもいいところだと思っています。明星大学では、広々とした敷地の中で勉強も頑張れますし、一息ついてのんびりできる雰囲気もある。これは都心の大学にはない魅力だと思います。 

落合学長 おっしゃるとおりですね。私は本学が多摩にある意味や意義を考えることがあります。明星大学は都心にキャンパスをもち、多摩にも出てきたという大学ではありません。多摩で産声をあげ多摩で育ってきた、多摩に根差した大学です。以前は丸の内や霞が関、永田町などを経由することが政治経済的・社会的活動の大前提でした。しかし、時代は変わりました。今は都心を経由しなくても、直接世界とつながりを持つことができる。芦川町から世界へ。多摩から世界へ。おっしゃるように、多摩はいろいろなところへアクセスしやすいし、会社の数も多く、優良企業もたくさん立地しています。多摩の総人口は静岡県全体の人口に匹敵するそうですし、多摩は大きなポテンシャルを秘めています。ここ多摩で明星大学は質の高い次世代育成を行い、国内国外を問わず活躍できる人間を送り出したいですし、地域発展にも幅広く貢献し続けたいと思っているんです。

保要さん 大学はどのように地域と関わりを持つのですか? 

落合学長 大学周辺の地域と包括連携協定を結んでいますから、いろいろな関わりがあります。学生のインターンシップを受け入れてもらったり、産学連携で本学が研究を受託したり、地域の企業などに学術面から役立つ仕事をしたり。学部学科のゼミやサークル活動でも地域と深いつながりをもっています*1。卒業して多摩各地の地方公共団体や関連組織に就職する人も少なくありません*2。いろいろな形で連携協力が根付いています。
地域に根差し、地域とともに発展していく明星大学。その意味では、経営学部の「事業承継・起業コース」も本学ならではかもしれません。地元企業の経営者のお子さんが勉強して、ゆくゆくは家業を引き継いでいくというケースを想定しています。

*1「学長が聞く、学長に聞く―第3回―交わり、広がる。ボランティア活動」では、地域とつながるボランティア活動、地域交流の取り組みについて紹介しています。

*2学長が聞く、学長に聞く―第2回―明星大学には、学びながら学内で働く人がいるには、日野社会教育センターに勤務している卒業生、井上恵里さんが登場しています。

地域と交わり、広がる取り組みをマップでご紹介―「地域交流マップ」

保要さん 明星大学はグローバルを目指すと同時にローカルにも注力する、と。なんだか私の人生みたいです。これからは、大学も身近な場所で身近な人を幸せにすることが、大事になっていくのかもしれませんね。 

落合学長 私もそう思っています。グローバルとローカルをつなぐのが、人と人とのネットワーク、組織間のネットワーク、ICT技術によるネットワークだと思っています。日本はこれから人口減の時代を迎えます。2040年以降には、循環経済*の効率のよいコンパクトシティ*化が進み、多摩にもその流れがきて、質の良いコンパクトシティが散在しつながっていく地域になることでしょう。その時、本学が地域とどのように共生し、同時にグローバルなネットワークをどう発展させていくのか。長期的なスパンで考えていきたいと思っています。 

*循環経済とコンパクトシティ
人口減少と高齢化が進むこれからの日本社会では、地域資源を域内で効率的に循環させるコンパクトシティ(生活圏が小さくまとまった町)が、質の高い暮らしを持続可能にすると期待されています。

保要さん 地域活性化の取り組みも、地元を良くしたいという想いだけでは長続きしません。しっかり仕組みをつくって、受け継いでいくことが大事。落合学長をはじめ、明星大学のみなさんには、より地域に愛される大学をめざしてほしいと思います。 

落合学長 それがあるべき明星大学の姿です。保要さんをはじめ多くの卒業生の力もお借りしながら、明星大学は多摩に根差し多摩に生きる大学として、地域とともに発展していきたいと思っています。今日は、貴重なお話やご指摘をいただき、ほんとうにありがとうございました。