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学長が聞く、学長に聞く―第20回―受け継がれる明星大学の「思いやり文化」(前編)

品川 七海さん(教育学部教育学科音楽コース2023年3月卒業)×落合 一泰(学長)

明星大学には、授業やクラブ・サークル活動など場面を問わず、日常的に「後輩のために」「困っている人のために」という自然な思いやりと行動が、学生のあいだで脈々と受け継がれています。 今回は、コロナ禍のなかでの入学で不安を抱えている下級生のために『学生フォロープレイス』を立ち上げた品川さんにお話を伺います。なぜ本学では、学生の誰もが自然と困っている人に寄り添えるのか?その秘密に迫ります。

仲間や職員の皆さんに支えられ、充実した学生生活に。

落合学長 今回お越しいただいた品川さんは、勤労奨学生として、また音楽サークルの一員として、さらに教員をめざす教育学科音楽コースの学生として、入学以来じつにさまざまな経験を積極的に積んできた方です。その中で感じた本学の良さやご自身の充実した日々について、お話しいただきたいと思い、今日来ていただきました。卒業直前のお忙しい中、ありがとうございます。
 
品川さん こちらこそ、素敵な機会をいただきありがとうございます。

【明星大学勤労奨学金(給付型)】
事務補助などの学内での実務を伴う給付型の奨学金制度です。年間約100名の学生が選ばれる、明星大学独自の特色ある経済支援制度です。

落合学長 早速ですが、勤労奨学生としての経験について聞かせていただけますか?
 
品川さん 私は勤労奨学生を経験するなかで、かけがえのない仲間や立派な職員に出会えました。人との出会いがこんなに素敵だなんて、本当に良かったと思っています。リードしてくれた職員の皆さんに恵まれたからこそ、こんなに充実した大学生活を送ってこられたと思っています。私は学生サポートセンターに所属したのですが、コロナ禍でもさまざまな仕事をさせてもらったので、自分の幅が広がりました。たとえば、パソコン作業力はかなり上達しました。最初はキーボードを1文字ずつ人差し指で打っていたのですが、今では動画の編集までできるようになりました。
 
落合学長 それはすごい!動画編集はどんなきっかけで覚えたのですか?

品川さん 学生サポートセンターの職員の方から、「新しい勤労奨学生を迎える伝達式があるけれど、先輩勤労奨学生として何かできることない?」と聞かれたときに、「勤労奨学生の1日(業務の様子)を動画にしてはどうでしょうか?」と返事したのがきっかけでした。見やすいようにテロップを入れたりBGMにこだわったり、YouTuberでもない私が動画の編集までするようになったんです。本当にびっくりです。学生サポートセンターでのお仕事には、いつも学びがあり、とてもためになりました。

落合学長 やるべき課題があって、勤労奨学生の仲間や職員の方がいて、そこに良いきっかけが重なって、品川さんは新しい技術修得に挑むことになったのですね。
 
品川さん まわりのみなさんには本当に助けられてきました。高校生向けの講演会や新人を迎える勤労奨学生伝達式などの企画では、みんながたくさんアイデアを出してくれました。おかげで、とても良いイベントになりました。
 
落合学長 足し算が掛け算になっていく感じがいいですね。品川さんには、以前からリーダーシップがあったのですか?
 
品川さん 私はどちらかというと大人しい方でしたし、引っ張っていく力などありませんでした。大学に入って勤労奨学生になって、職員の方と出会ったことで自分が開花したと感じています。学生サポートセンターの職員の皆さんは、事務的な仕事を割り振るというより、いつも私たちのことを信じて「こんなことやりたいのだけど、何かいい案ある?」と問いかけてくれるんです。そうすると、主体的に働こうという私たちの意欲も高まります。コロナ禍で1年生の時に登校できなかった学生や新入生のために『学生フォロープレイス』を立ち上げようと思ったのも、そうした環境のおかげです。

出会えて良かった、学生サポートセンターの大好きな職員さん。(左:種茂さん/右:渡辺さん)

落合学長 そうでしたか、職員の方からも良い働きかけがあったのですね。その『学生フォロープレイス』とは、どんな活動なのですか?

勤労奨学生のアイデアで始まった『学生フォロープレイス』。

品川さん 私が2年生の時、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で大学に登校できない時期がありました。その後3年生になって対面授業が広く始まった時に、職員の方や勤労奨学生の間で何かできないかという話がでました。その年の新2年生のなかには、半年間オンラインでしか授業に出ることができなかったので、友達ができていなかったり、SNS上でしか友人に会ったことがなかったりという子も多かったんです。そうなると、大学に来ることに不安を感じているかもしれないと考えました。そこで新学年が始まる時期に、学内の大学会館の入ってすぐのところに机とイスで窓口を作り、上級生が下級生の困りごとに答える場所にしました。そこを『学生フォロープレイス』と名づけたんです。窓口では、学内施設の案内やWi-Fiのつなぎ方などを含め、何でも答えました。

学生フォロープレイスで。

落合学長 新学年が始まったばかりのタイミングですから、新入生は聞きたいことばかりでしたでしょうね。そうしたニーズにマッチしたとてもいい取り組みだったと思います。
 
品川さん さまざまな困りごとに対応できるように、なるべくいろいろな学部や学年の学生が窓口にいるようにしました。学内施設の案内も、2年目からはQRコードを使って現在地から目的地までの動画を読み込めるようにして、感覚的にわかりやすくしました。それから、窓口に来ないと案内してもらえないとなると相談しにくくなりますので、学内を歩いて挨拶しながら声をかけるようにもしました
 
落合学長 素晴らしい!いつでもどこでもフォローしてくれる。これは下級生には心強かったことでしょう。
 
品川さん なかには恋愛相談までしてくれる子もいて、こちらも楽しかったです。職員の皆さんからも評価していただけました。2021年と2022年の4月から5月に開催したのですが、毎年1ヵ月だけで終えるのがもったいないくらいでした。
 
落合学長 先ほど学内施設の案内を動画にして2年目に改善したというお話がありましたが、新入生の困りごとをリストにしたりしたのですか?
 
品川さん はい。何学部の何年生からどんな相談があったかなど、相談シートをつくって全部まとめてあります。また、勤労奨学生同士でも連携を図るために、交換日記を用意してその日にあった出来事を伝達し合っていました。 

相談シート
交換日記

落合学長 それも勤労奨学生のみなさんの発案ですか?
 
品川さん 職員の方から「2年目の活動をより良くするためにできる事は?」と問いかけられたんです。それを受けて、学生が中心になって考えました。
 
落合学長 コロナ禍で制約も多い中、自分たちで考えて、みんなを巻き込みながら実行に移したのは本当にすごいと思います。きっと手助けしてもらった後輩たちが上級生になった時に、今度は自分の番だと頑張ってくれることでしょう。

後輩を心から思いやる、先輩の本気が連鎖する。

落合学長 先輩と後輩の間の思いやりといえば、私も「自立と体験1」という1年生の授業を担当していた時に忘れられない経験をしました。ある年の4月、「自立と体験1」の1回目の授業が終わったときのことでした。ひとりの女子学生が教室に残り、声を上げずに立って泣いていたのです。私のSA(スチューデント・アシスタント)を務めていた上級生の女子学生がそれに気づきました。そして、そっと近づき、話を聞きながらハグし、しばらくのあいだ背中をさすってあげたのです。ややあって女子学生は表情を取り戻し、教室を後にしました。
 
見送ったアシスタントに聞くと、理工学部の学生で、学部内に女子が少ないことから、大学生活をうまく送れるか不安になって泣いてしまったのだそうです。ハグをしながらアシスタントは、「大丈夫、私も同じだったから。同じコースの2年生を知っているから紹介するね。少しずつ慣れていこう」と言ってあげたのだそうです。落ち着いて優しい言葉をかけてくれたアシスタントの判断と行動に私は驚き、感謝しかありませんでした。
 
元気を取り戻したその学生は、最終回まで皆出席でした。嬉しかったのは、翌年のSA募集があったとき、その学生が「自分も後輩の役に立ちたい」と応募してくれたことでした。学生同士のいたわり合う気持ちが、こうしてつながっていきました。明星らしい、私には宝物のようなエピソードです。

【SA(スチューデント・アシスタント)】
下級生の授業の運営をサポートする上級生のこと。勤労奨学生と同程度の水準の給与を得て活動しています。初年次教育科目「自立と体験1」(2023年度から「学びとキャリア」)の場合は、SAが年齢的に学生に近い立場でサポートを行い、下級生に良い影響を与えています。同時にSA自身にとっても、この経験が自分を成長させる機会になっています。

品川さん えー!素敵なお話ですね。
 
落合学長 当時、これは特別なケースだと思っていました。しかし、さまざまな場面で先輩が困っている後輩を助ける姿を見かけるようになって気づきました。明星大学ではそれが当たり前の、日常的な学生文化なのだと。
 
品川さん 実は私も、自分が1年生の時にサポートしてくれた先輩に憧れてSAをやらせていただいたんです。私が担当した時はリモート授業だったのですが、その中の一人が「私も品川さんのようになりたい」と言ってくれました。勤労奨学生をやっていることを伝えると、その子も応募してくれました。新勤労奨学生を迎える伝達式の時に対面で会えた時は、とても嬉しかったです。また、オープンキャンパスの個別相談で対応した高校生が入学して訪ねてきてくれたということもありました。勤労奨学生やSAは後輩たちに大きな影響を与える存在なのだと再認識しましたね。

オープンキャンパスのキャンパスツアー。学生目線で、大学の魅力を伝えます。

落合学長 品川さんもそうですが、勤労奨学生のみなさんが高い意識と誇りを持って仕事をしてくれているから、高校生や後輩たちも魅力を感じて心惹かれるのだと思います。その積み重ねが本学の文化を形作ってきました。これは言うほど簡単なことではないと思います。
 
品川さん オープンキャンパスや入試の時の勤労奨学生は、本当にキラキラしています。高校生のみなさんには、この雰囲気をぜひ体験しにきてほしいです。普段は別々の部署で働いている勤労奨学生たちが集まって一緒に仕事をするので、そこで新しい仲間ができたりもします。
 
落合学長 これから一生付き合っていける友人も沢山できたでしょうね。
 
品川さん はい!卒業して離れるのが寂しいくらいです。
 
後編へ続きます。