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学長が聞く、学長に聞く―第19回―甲子園から明星大学へ、そして東京ドームへ。野球と物理学の文武両道でプロ野球への道を拓く(後編)

松井 颯 さん(理工学部 総合理工学科 物理学系4年/硬式野球部)×落合 一泰(学長)

前編では、松井選手がこれまでの競技生活の中で磨いてきたものや、部活動と学業をどのようにして両立してきたかについてうかがいました。後編では、松井選手を4年間にわたって指導してきた明星大学硬式野球部浜井澒丈(ひろたけ)監督と山田茂男総監督も加わり、落合学長がかねて関心を持っているカレッジスポーツの意義や、指導するうえで大事にしていることなどについてお話しいただきました。

カレッジスポーツの世界で、本当に大切なこととは?

落合学長 ここからは、硬式野球部の浜井監督と山田総監督にも加わっていただき、お話をうかがいたいと思います。
 
浜井監督・山田総監督 よろしくお願いします。
 
落合学長 私はカレッジスポーツの大ファンで、アメリカでも留学先の大学のチームをずっと応援していました。フットボールやアイスホッケーの試合では、ふだんは物静かな若手教員たちと一緒に応援歌を歌ったりマフラーを振り回したりしていました。大学にスポーツ文化が根付いていると、幾度も感じたことでした。浜井監督は日本代表監督を務めたり、都市対抗野球の優勝チームを育て上げたりと、他に例をみない多くの経験をお持ちです。監督のような日本のアマチュア野球界の重鎮の目には、大学野球も含めた日本のカレッジスポーツはどう映っていますか?
 
浜井監督 カレッジスポーツが盛んなアメリカでは、高校を出てすぐにプロに行ける技術がある学生は短大に、しばらく時間がかかりそうな場合は大学に行くというのが主流です。野球でいえば、日本のプロ野球では一律に大学での4年間を経てドラフトの指名を受けます。ここに日米の大きな違いがあります。
 
もうひとつ、大きな違いがあります。日本の大学野球の選手たちは、プロ野球に行くにしても企業に就職するにしても、卒業して社会に出ることになります。そのための準備として、私たちは技術向上と同時に人間形成を重視しています。私は本学の野球部での活動を通して、社会人の基本にある挨拶や根気強く取り組む姿勢を身につけるようにと指導しています。そうした部分の積み重ねが、周囲からの信頼や尊敬を勝ち取るからです。
 
落合学長 日本では、カレッジスポーツを通じて競技の技術を磨くだけでなく社会人になるための土台も養っているのですね。以前、硬式野球部出身の卒業生と学内で出会って、とても立派に仕事に励んでいる様子がまぶしいほどでした。その背景には、そうした教えがあったのですね。松井さんは、選手としてカレッジスポーツをどう見ていましたか?
 
松井選手 海外では野球以外にもアメフトやバスケットなどいろいろなスポーツが盛んで、広大な敷地の中にそれぞれの専用球場があり、大学のみんなが応援できる環境も整っていて素晴らしいなと思います。もちろん日本のカレッジスポーツにも、短い移動距離でいろいろなところに行って試合ができるなど良い面もあります。両方のいいところを取り入れて、発展していってくれるといいなと思います。
 
落合学長 確かにアメリカなどでは、大学の文化になっていますよね。私は留学中、フットボールチームの学生もいる寮で暮らしていたのですが、スペイン語の補習を手伝ったことがありました。選手たちは奨学金をもらっていて、成績が悪くなるとスポーツ自体を続けられなくなりますから、いつも必死に勉強していました。そうした意味でも、文武両道を極めた学生として、選手はみんなから尊敬を集めていました。松井さんも、素晴らしい選手であり学生だという点が模範的だと思っているんです。
 
浜井監督 彼は、本当によく頑張ったと思います。

写真左:浜井澒丈 監督 / 写真右:山田茂男 総監督

人間形成の場としてのカレッジスポーツの価値。

落合学長 山田総監督は、大学職員としてもさまざまな学生を見てこられました。大学でスポーツが果たす役割はどんなところにあるとお考えですか?
 
山田総監督 私も浜井監督と同じように、カレッジスポーツは社会に通用する人材を育成する人間形成の場だと捉えています。強い弱い、勝ち負けの前に大事なことがあります。大学卒業後の長い人生、プロ野球に入る者もいれば、企業に勤める者もいる。中には教職の道に進む者もいます。そうした長いキャリアを見据えた人間教育もカレッジスポーツの大事な要素だと思っています。本学の硬式野球部では、学業と野球の両立を基本理念に掲げています。文武両道をめざして野球と物理学に取り組んできた松井君は、部の理念を体現した一人です。後輩たちのお手本になる存在だと思います。
 
落合学長 硬式野球部もひとつの社会です。その社会の中で、お互いに学び合うことも多いと思います。上級生もいれば下級生もいて、指導してくださる監督やコーチなど年齢の離れた人もいる。そんな中で密度の濃い時間を過ごすことには、大きな価値があると思います。硬式野球部では、その時間を人間形成の時間として位置付けているとうかがい、襟を正す思いです。松井さん、硬式野球部で4年間を過ごしてプレー以外に学んだことは何でしょうか?
 
松井選手 世代や立場の異なる方とのコミュニケーション能力は、かなり身についたと感じています。
 
落合学長 大事なことですね。硬式野球部での4年間で、親和力(仲間と信頼関係を築く力)、協働力(協力的に課題に取り組む力)、統率力(議論を建設的に進めていく力)など、いわゆる対人基礎力が伸びたということなのでしょう。松井さん以外の部員もきっとそうだと思います。

硬式野球部は地域とのつながりも大切にしています。写真は日野市少年野球教室でのひとこま。

チームがひとつになるために必要なこと。
大学がひとつになるために必要なこと。

落合学長 浜井監督、山田総監督のお二人は、チームをつくり上げていくうえで大事にしていることはありますか。個の力も大事ですが、野球は一人ではできません。チーム全体の力が重要になると思います。いかがでしょうか?
 
浜井監督 私は野球の専門家なので、選手の技術をまず見るのですが、同時に人間性も見ています。いくら技術に長けていても、周囲との信頼関係を築けなければみんなから頼りにしてもらえません。また、下手でも努力をすれば何か身になることがあるから、常にみんなの先頭に立って一生懸命やりなさいと伝えています。硬式野球部には毎年100人近い選手が在籍しますので、人の前に出てやらないとなかなか自分を認めてもらうことも難しい。人の後ろについているだけでは、自分の後ろに誰もいないということになってしまいます。自分が一生懸命に頑張る背中を見せて、周りの人が自分から学ぶようなチームをつくりなさいと話しています。それは学業でも同じです。一番前の席に座って必死に勉強していれば、その姿を見た周りの学生に必ずいい影響があるはずです。常に自分を律して、それを誇りにしながら人間性を磨いていってほしいと思っています。
 
落合学長 素晴らしい方針ですね。互いに研きあう姿が、いい影響をチーム内に生み出しているのですね。大学全体にとっても、それが硬式野球部をはじめとする誇り高きクラブのあるべき姿だと思います。
 
浜井監督 実は、松井君も3年生の春まではあまり目立たない選手でした。しかし、地道に努力を重ねていることを私は知っていました。入学した頃は、同学年の別のピッチャーが安定した投球をしていて注目されていました。それを見ながら、いつかは越えてやろうという意識で一生懸命に練習をしていたのが今の飛躍につながったと思います。
 
落合学長 松井さんは、自分の限界を知りたい気持ちを原動力にコツコツと努力を重ねてきたと、さきほどおっしゃっていましたね。
 
松井選手 はい。1、2年生の時にウェイトトレーニングなどで頑張った期間があって、それがその後の土台になりました。それがあったからこそ、技術的にも成長できたと思っています。
 
落合学長 「努力は嘘をつかない」という言葉があります。言うのは簡単でも実践するのはとても難しいことです。松井さんや浜井監督、山田総監督のお話をうかがいながら、カレッジスポーツがもたらす豊かな人間形成の一端を知ることができました。
 
スポーツに取り組みながら学業との両立を図っているみなさんのことを他の学生たちがもっと知り、みんなが一体になって応援できるように、選手と一般学生が接する機会を大学としても増やしたいと私は思っています。プロになる選手を特別な存在としてだけでなく、尊敬できる身近な存在として他の学生にも知ってもらいたい。プロの世界での活躍をニュースなどで知るより前に、選手たちをキャンパスで見ていて、とても努力をする人間だったからこういう結果を残せたんだ、自分も見習わねばと、誇りと励みをもたらす存在として感じてもらいたい。そこにカレッジスポーツの重要な存在意義のひとつがあると思っているんです。浜井監督や山田総監督の部員への人間教育と選手教育は、そのように他の学生にも還元されていくはずと私は信じています。
 
今日はこれまで知らなかったお話をうかがうことができました。ご出席の皆さんに心から感謝いたします。松井さん、プロ野球での活躍を期待しています。
 
松井選手 ありがとうございます。精一杯、頑張ります。
 
落合学長 浜井監督、山田総監督、貴重なお話をありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
 
浜井監督 こちらこそ、よろしくお願いいたします。
 
山田総監督 今後の部の運営を考えるうえで、今日は大きな学びがありました。本当にありがとうございました。

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