学長が聞く、学長に聞く―第2回―明星大学には、学びながら学内で働く人がいる(後編)
井上恵里(教育学科卒業生/公益財団法人 社会教育協会 日野社会教育センター勤務)×
草野雅(経済学部 経済学科)×
落合一泰(学長)
前編では、勤労奨学生としての経験をお持ちのお二人が、どのような仕事をして、そこで何を感じたかを話してくれました。
後編では、先輩や職員の方がどんな存在であったかなど、さらに深い話が続きます。そして、最後にお二人に、学長へ聞きたいこと、伝えたいことを語ってもらいました。お話の途中には、思わず心温まるエピソードも。ぜひお読みください!
先輩から後輩へ受け継がれる温かな伝統
落合学長 お二人にとって先輩とはどんな存在でしたか?
井上さん とても心強い存在でした。私が1年生の時に、通信教育事務室の勤労生で同じ教育学部の先輩がいました。その方に同じ学部やコースの人につないでいただき、交流の輪が広がりました。明星大学には、誰から教わったわけでもなく、先輩が後輩の面倒を見る伝統がありますよね。先輩たちが作り上げてきた、さりげない優しさの連鎖にすごく助けられました。
草野さん それは私も実感しています。勤労奨学生になろうと思ったきっかけが、ある先輩の姿を見たことでした。働きはじめてからは、私も後輩のために何ができるだろうと考えるようになりました。先輩は憧れであり、自分もそうなりたいと思える大きな存在でした。
落合学長 良いお話ですね。私も数年前から担当している初年次教育の「自立と体験1」という授業で、勤労奨学生の力を実感したことがあります。この授業は、教員と勤労奨学生のSA(スチューデント・アシスタント)がペアを組んで行うのですが、ある年の4月、第一回目の授業が終わった時に、一人の女子学生がひとり残って泣いていたんです。授業中から緊張しているようだけど大丈夫かな?と私も思っていたのですが、泣いている理由はわかりませんでした。そうしたら、SAの女子学生が、すっと近寄って話を聞いて、最後はにこにこしながらしばらくハグをしてくれて。あとでSAさんから話を聞いたら、これから4年間うまくやっていけるか心配になっていたんだそうです。その一年生に対して三年生のSAさんは、「大丈夫だよ、あなたの学科の学生を知っているから、後で紹介するね」と言ってあげたんだそうです。そうしたら、泣いていた女子学生も、少し元気になって帰っていきました。
【SA(スチューデント・アシスタント)】
下級生の授業運営をサポートする上級生のこと。「自立と体験1」では、SAが教員よりも学生に近い立場でサポートを行い、下級生に良い影響を与えています。同時にSA自身もこの経験を通して成長する機会になっています。
草野さん よかった。
落合学長 その時は、そのSAの人間としての温かさをすごく感じましたね。いま思い出しても、瞼が熱くなります。この話には後日談があるんです。泣いていた学生は最後まで無欠席でした。そして、お二人の話とも重なるのですが、私も先輩のように後輩の助けになりたいと、次の年の勤労奨学生に手を上げてくれたんです。
井上さん 素敵なお話ですね。
落合学長 年齢の近い者同士のつながりの中で生まれる、本当にいい伝統です。勤労奨学生が責任を持って仕事をする姿が、後輩たちに伝わっているのだと思います。私たちも学生から学ぶことは多いです。私も授業後にSAさんに叱られたりしていますよ。
井上さん、草野さん (笑)
社会人の一人としての自覚が芽生える機会
落合学長 大学職員の方と一緒に働いて、社会人と接している実感はありましたか?
草野さん はい。働いているときは、学生ではなく同じ職員の一人として見てくださっているなと感じました。単なるお手伝いではなく、私たちの意見が反映されることもありました。そんな環境の中で、私も社会人として見られているのだと自覚できました。
井上さん 提出の締め切りを過ぎてレポートを持ってきた学生に毅然とした態度で臨まれている姿に、大人の厳しさを感じました。それから、新たに赴任された派遣の方が、年下だけど長く在籍している私に、わからないことを素直に尋ねる姿に、社会人としてのあり方を学びました。
落合学長 学生にとり大学は社会であり、学生はその社会の一員でもあるわけですよね。卒業前の学生だからといって受け身になるのではなく、一人の社会人として自覚を持って働くことは、とてもいいことだと思います。
まだ見ぬ後輩たちのためにできることを
落合学長 お二人から私に聞きたいことはありますか?
草野さん 私自身がたくさんのいい経験をした勤労奨学金制度には、ずっと続いてほしいと思っています。ですが、2021年度はまだ選考が行われておらず存続を危惧しています。今後はどのようにお考えですか?
落合学長 昨今のコロナ禍の事情により、来年2021年度の募集についてもまだ定まっていない状況です。しかし、この良き伝統がなくなることは決してありません。大丈夫です。
草野さん 夏のオープンキャンパスで教育学部の学生の話を聞きたいという方がいた時に、教員採用試験と時期が重なって4年生がほとんどいない状態のときがありました。勤労奨学生の学部の偏りについてはどう思われますか?
落合学長 イベントでいろいろな学部生が受験生を迎えることは大事だと思います。ただ、そのことと勤労奨学金制度は分けて考える必要があります。この制度は、学生一人ひとりが自立した個人として応募するのが基本です。ですから、学部の募集枠をつくるのは本来の趣旨に合いません。イベントごとに「〇〇学部の学生が足りないので、きてくれませんか?」と声かけして、別途アルバイト雇用で調整していくことになると思います。
井上さん これはお願いになるのですが…。私のもとに来てくれる学生ボランティアの多くが、コロナ禍にあっても学んでいきたいという強い意思を持っています。みなさんの話を聞くと、直接会って学べる機会の必要性を痛感します。そこに行けば、誰かに会えるというのは、心の安全基地にもなります。ですので、どうにか心の拠り所をつくっていただければと思います。
落合学長 先ほどのお話の中で、大学に来る習慣ということがありましたね。それはとても重要だと感じています。今後のコロナ禍の推移にもよりますし、「3密」は避けなければいけませんが、オンラインだけではなく対面での授業やガイダンスの機会、ぶらっと立ち寄れる場所などを増やして、学生のみなさんに大学に来てもらえるようにしたいと思っています。お二人とも、後輩たちを思いやる温かいご意見をくださり、本当にありがとうございます。
――次回の「学長が聞く、学長に聞く」は、1月末頃の公開を予定しています。お楽しみに!
この記事は、2020年12月時点の情報をもとに構成しています。