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学長が聞く、学長に聞く―第6回―地域とつながり話題を生み出す仕掛け人(後編)

田原 洋樹 特任教授(経営学部経営学科)×落合 一泰(学長)

前編では、田原特任教授が学生たちと取り組んできた地域連携のお話と、それにまつわる試行錯誤の日々について伺いました。後編では、元・会社員、企業経営者、社会人大学院生、大学教員という、さまざまな顔を持つ田原先生のキャリアについて深掘りします。ひとつの会社で勤め上げる時代が終わりを迎えようとしている時代です。これから社会に出る学生の皆さんに役立つ新たなヒントが、そこにあるかもしれません。

挫折に学び、次につなげる田原流キャリア術

落合学長 田原先生のプロフィールを拝見すると、実にさまざまな経歴をお持ちです。これから社会に出る学生の参考になると思いますので、少しお話くださいませんか?

田原特任教授 はい。最初に触れたように、大学を卒業して15年間、JTBで法人営業をやっていました。最初は都内の支店に配属され、営業成績は最下位という挫折からのスタートでした。その時点で辞めようかと思ったのですが、自分なりに工夫を重ねたことと、その頃に始まったネットの導入なども相まって、みるみるうちに成績が上がり、トップセールス賞をいただけるまでになりました。その結果、当時の最年少で営業課長に抜擢されました。

落合学長 それはすごいことですね。

田原特任教授 しかし、また挫折が待っていました。自分の成功体験をメンバーに授けたものの、うまく機能せず、チームが崩壊してしまったんです。改めて、チームマネジメントを一から学びたいという気持ちが高まり、一念発起してリクルートの人材開発コンサルティングへの転身を決意しました。

落合学長 チームマネジメントでの挫折が、人材開発に向かう原動力になったのですね。

田原特任教授 はい。決断するまではとても悩みましたが、働きながら学べる機会があると思ってチャレンジしました。その後4年間、いろいろな企業を訪問し、あらゆる業種の方と接しました。そして独立し、人材育成と地域活性化のコンサルタント業務を行う会社を興して現在に至ります。そして、人材開発や育成について顧客に情報を提供する中で、若い世代をトレーニングすることに関心が向くようになりました。大学教育や大学教員への道を考えるようになったのは、その頃からです。

教えながら学び続ける、二刀流の生き方

落合学長 2014年の東京国際大学客員講師着任が最初ですね。2017年からは本学の特任准教授を務め、2019年には特任教授になられました。その一方で、法政大学の大学院政策創造研究科で政策学を学ばれましたね。

田原特任教授 はい。去年の3月に修士課程を修了しました。

落合学長 どのような政策を研究したのですか?

田原特任教授 地域政策、地域雇用、人材開発や育成を中心に研究しました。修士論文では、域学連携が学生に与える影響・効果をテーマにしました。具体的には、地域連携の学びのプロセスのなかで学生はどのような経験を積んだのか、それは社会人基礎力のようなジェネリックスキルの習得に、どのような変化を及ぼしたのか、です。

落合学長 大学で教員として教壇に立ちながら、そこで得たものを大学院の研究テーマになさっていたのですね。教えることと学ぶことを同時にやっていらしたとは驚きです。さらに今は北陸先端科学技術大学院でも研究を続けていらっしゃる。なぜ教員になってからも学びに行こうと思われたのですか?

田原特任教授 先ほどお話した通り、私は実務畑を経て教育の世界に入りました。しかし、経験を語るだけでは限界があります。経験頼みの教育は学生にいいのだろうか?という疑問もありました。また、自分自身にもっとインプットが必要だということも分かっていました。そこで、社会人大学院で学ぼうと決心したんです。

落合学長 いろいろな分野で変化の大きい21世紀には、生涯にわたり【学び続ける力】が求められます。明星大学は、卒業後も【学び続ける力】を発揮してもらえるよう、その方法を在学中に身につける教育を目指しています。その意味で、学びの現場と実務の現場を往復しながら歩んでいる田原先生のキャリアは、若い世代にとり、とても良いロールモデルだと思います。先生は、これから社会に出て行く学生たちに、何をどんなふうに伝えていきたいですか?

田原特任教授 学生たちには、社会人大学院に行っていることを伝えています。また、卒業論文に取り組む4年生には、同じ学生として気持ちがよくわかるよと話しています。つまり、学生たちと一緒に学んでいるという感じです。皆がどう受け取っているかわかりませんが、そのことによって何か良い影響を学生に与えられたらいいなと思っています。

落合学長 学生たちの前に立って引っ張っていくというより、横に並んで一緒に汗をかきながら歩んでいく姿を見せているわけですね。

田原特任教授 はい。私の姿を見て、大学を卒業したら勉強はおしまいなのではなく、ここからがスタートだ!と思ってくれると嬉しいですね。

落合学長 新しいタイプの教え方であり、学び方だと思います。福沢諭吉の「半学半教」*の精神を思い出します。

「半学半教」
教える側と学ぶ側とを分けることなく、互いに教え合い学び合う精神、仕組み。慶應義塾を創立した福沢諭吉が唱えた。

ところで、田原先生は経営学部の教員ですから、自分も起業をしたいという学生が周囲にいると思います。ご自身も経営者ということで、どんなアドバイスをしていますか?

田原特任教授 まず、起業は難しいと言っています。今の時代は資本金ゼロでも起業できます。でも、相当な覚悟が必要です。ただ単に、会社に入って縛られたくないとか、上司とのやりとりが面倒だとか言う学生もいますが、そういう場合はまず組織に入って一度は揉まれなさいと伝えています。「週末起業」という言葉があるように、今では副業のひとつとしてビジネスを興すという選択肢もありますし。

落合学長 なるほど、よくわかりました。では最後の質問です。9学部12学科の総合大学としての明星大学のポテンシャルを活かすには、どうしたらいいとお考えでしょうか?

田原特任教授 コロナ禍の影響でプラスに働いたことのひとつに、オンラインでいろいろなところからアクセスしやすくなった点があります。そのメリットを活かして、どの学部の授業を見てもいいという閲覧システムをつくってみてはどうでしょうか。履修登録していない授業の教室にリアルに入っていくのは「もぐり」のようで気が引けます。でも、オンラインなら、のぞいたり参加したりしやすいと思います。もちろん、教員の許可や機密情報に対する配慮が必要ですけれど。もっと広げて言えば、多摩地域にはたくさん大学があるので、近隣の大学と双方で見られるようにしても面白いのではないかと思います。

落合学長 なるほど。大きな構想ですね。

田原特任教授 実際、ゼミ単位では、すでに帝京大学の小笠原ゼミと域学連携というテーマで交流しています。今はなかなかリアルな活動ができませんが、コロナ禍が収束した後はまた交流を活発化させたいと思っています。

落合学長 学生にとり、大学の壁を越えた連携はもちろん、多摩地域の企業や自治体と連携し活動の幅を広げていくことは、とても大事です。田原先生にはこれからも学生に伴走し、【学び続ける力】を学生とともに求めていっていただきたい。私は、そう心から願っています。

アンソレイユ


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