教員就職者数"4年連続増"を深堀り ー教職指導教員が語る「教員を輩出すること」の重みと責任
明星大学(通学課程)の2020年度卒業生のうち、323名が教員・保育士としての就職を果たしました。本学の教員・保育士就職者数は4年連続で増加しており、中でも高倍率で難易度の高い中学校・高等学校の教員就職者数はこの4年で倍増しています。
この数字の裏側を深掘りすべく、教職センター特任教授である神田 正美先生にお話を伺いました。
神田先生は公立中学校の教員として校長職まで務めた後、教職指導を担当する特任教員として2017年度より明星大学に着任。以降、特に中学校・高等学校の教員を志望する学生への指導に力を注いでこられました。どのような想いを持って、どのような指導をしてきたのか。教員を志望する学生と日々接する中で感じること、これから教員を目指す人へのメッセージもいただきました。
「教員就職者数4年連続増」「中高教員就職者数倍増」の背景は?
広報:この4年で中学校・高等学校の教員就職者数が倍増したことについて、どのように受け止めていますか?どんな背景・理由が考えられますでしょうか?
神田:ひとつには、先輩との縦のつながりによる好循環、というのがあると思います。
教職センターが実施した「自治体×校種別 ピンポイント合格体験談」など、先輩とつながり情報を得られる機会が増えました。
中でも中学校・高等学校に関しては、数年前であれば「中高は難しいから・・」と敬遠していた学生も「あの先輩に続こう」と背中を押され、後輩達が後に続いていくという好循環が生まれていると感じます。
加えてこの数年で自分を含め中高の教育現場出身の教職指導教員が増えたことも背景にあります。
「明星といえば小学校教員」というイメージが強かったかもしれませんが、中高教員を輩出する土壌も整ってきたと思います。
広報:教育学部以外で教職課程のある学部(理工学部、人文学部、経済学部、情報学部)からの教員就職者も増えています。所属学科の課程と教職課程との両立は厳しい部分もあるかと思いますが、先生が実際にご指導にあたるなかで感じられることはありますか?
神田:各学部から教員を目指す母数が増えて来ていると思います。単純に母数が増えたから就職者も増えたというだけでなく、「同じ場所で教員を目指す仲間がいる」というところが大きいのではないでしょうか。皆さん強い覚悟を持って教職を志していると感じます。
所属学科の課程と教職課程の両立は大変ですが、学科でしか学べないことがあり、その専門性は教員になってからも強みになります。そういう学生がこれからもっと増えるといいなと思います。
教員=ブラックですか・・?
広報:神田先生が学生に教職指導をする際に心がけていることはありますか?
神田:教員という仕事の「楽しさ・面白さ」と「大変さ」を同時に伝えるようにしています。今、「教員の仕事はブラックだ」と言われますが、そういう側面は実態として確かにあります。少しずつ改善されつつあるけれども、そんなに簡単に天国のような状態になるわけではない。それをわかった上でないと教員としてやっていけないよ、と伝えています。教員になっても1~2年で辞めてしまうケースもある。キラキラした部分だけを切り取って伝えるのは学生への裏切りです。
教員の大変な側面を理解した上で、それでも教育に対する熱を失わない、たくましい覚悟、情熱を持ってほしいと思います。
そういった、教員という仕事の様々な側面を実体験を踏まえて学生に伝えるのが、我々現場を知る教職指導教員の役割です。
1年生の教職必修科目「教職入門」では、全15回の授業で教員の仕事の面白さ、楽しさ、辛さ、責任感といったことについて伝えています。
広報:厳しい話をした時の、学生の反応はどうですか?教職を諦める学生が続出するのでは・・?
神田:中には大変さを知って教職課程を辞めるという学生も90人中1~2人、くらいの割合でいます。
広報:すみません、正直もっと多いかと思いました・・
神田:逆に自分がこれまで出会ってきた先生に改めて感謝したいという学生も多いですよ。こんな苦労のもとで自分たちに接してくれていたんだと。
広報:素敵な気付き・・。ちなみに厳しい話っていうのは、どんな話ですか?
神田:実際に自分が校長を務めていたときに受けた保護者からのクレームをその場で再現し、自分だったらどうするか、学生が教員役になって考えさせたり、シミュレーションさせたりしています。
あとは毎回レポートを書いてもらっていて、様々な角度から問いかけることで、ジワジワと教員という仕事に向き合えるようにしています。レポートには毎回コメントを入れて返していますが、回を追うごとに教職への理解と覚悟を深めているのがわかります。
広報:ジワジワと(笑)。頭ごなしに厳しさを伝えるのではなく、自ら考え気付きを得るように促しているのですね。ちなみに先生、話がそれますが・・「教職入門」の履修者約90人×2クラスあって、毎回の授業で全員分のレポートにコメントを返してるんですよね・・?!寝てますか!?
神田:授業の前の日は睡眠時間2時間くらいですね。(平然)
広報:いやいや先生・・!寝てください・・!(泣)
▲「教職入門」の最終回で提出されたレポートより。教員という仕事の両面を知った上で、改めて覚悟を固めた様子が伺えます。
▲全員のレポートにコメントを返し、そのやりとりを通じて教職への理解と気づきを深めていきます。
教員を目指すあなたへ
広報:これから教員をめざす人に、メッセージをお願いします。
神田:今色々厳しい状況ですが、教育というのはとても尊い仕事だと私は思っています。児童・生徒を育てるということは、イコール自分が育つということです。自分を高める時間が常にある、一生成長できるというのは恵まれたことだと思います。
広報:ちなみに・・神田先生は、生まれ変わったらどの職業を選びますか?
神田:生まれ変わってもやっぱり教員をやりたいですね。
広報:なんか言わせたみたいになっていませんでしょうか・・?
神田:「人を育てる」ということに係わるのは、すごく楽しみがあります。今自分がやっていること、寝る時間を惜しんでまで働いているっていうのは正直ブラックですよね。でも自分にとってはそれが全く苦ではなくて。ある意味職人ですよね。生き方そのものが仕事になっている。その意味では良い生き方をしているなと自分では思います。
▲教員採用試験の面接練習は真剣勝負。「練習が厳しすぎたので本番は楽に感じた」という声多数(!)
▲8月は個別での面接練習も連日続きます。この日指導を受けていた教育学科4年生の中川さんに、神田先生について伺いました。
「一人一人に合った指導をしてくださる先生です。大学という場所は良くも悪くも自由度が高く、ともすると自分の短所に向き合うことのないまま大学生活を終えてしまうこともあるかもしれません。神田先生は短所に向き合う時間も含めて、手を離すことなく導いてくれます。」
—インタビューを終えて—
今回「教員就職者数」という切り口からインタビューに臨みましたが、そこから見えてきたのは就職をゴールとせず、卒業後長く続く教員人生を見据え、学生一人一人と真剣勝負で向き合う先生の姿でした。
「学校現場に長くいた者として、そこに学生を送り出すことの責任を常に感じている」という言葉が印象的でした。