学長が聞く、学長に聞く―第1回―「考える」って何だろう?(後編)
山中脩也(情報学部 情報学科 准教授)×落合一泰(学長)
前編では、「考えるとは、いったい何だろう?」ということにフォーカスをあてて情報学部 情報学科の山中先生にお話を伺ってきました。後編は、明星大学が取り組んでいる学びのあり方について、山中先生が落合学長に迫ります。攻守交代!後半戦、スタートです。
明星大学の学びの中にある「探究」と「探索」
落合学長 先ほどの話題の中で、山中先生が「探究」という言葉をおっしゃいました。これは、大学での学びに置き換えると、専門分野の学修においてとても重要なものです。いわゆる「セントラル」な学び方です。一方で、学生が自分の専門を越えてさまざまな知識や人、現場と交わり、視野を広げていくことも重要です。これを私は「クロッシング」と呼んでいます。
ひとつのことを深める「探究」と、幅広く探っていく「探索」。セントラルとクロッシングをセットで身につけていくことが、大学生にとって大事なことです。こうした両面的な学修を、明星大学教育の特色に育てようと計画しています。
(↑学部学科の枠を超えた学生たちがひとつのテーブルに集い「自立と体験1」に取り組む様子。)
落合学長 明星大学らしい学修のひとつに、学部・学科の枠を超えた全学横断型の初年次科目「自立と体験1」があります。毎年2,000名以上の新入生が、学科を混ぜた30名ずつ約70クラスに分かれてアクティブラーニングを行っています。いろいろな学科の学生が一緒になって課題を見つけてグループワークを進め、最終的にそれを自分個人の考えにまとめていきます。
私も過去6年間、「自立と体験1」の授業を担当してきました。学部・学科ごとの初年次教育の効果もあって、学生は入学後の1学期間で見違えるように成長します。「自立と体験1」の学生アンケートにも、他学科の人たちと交流するのが面白い、自分の書く力の向上を実感する、という声が少なくありません。
このような所属学科を横断するクロッシング型の授業ができるのも、9学部12学科がワンキャンパスに集まっている明星大学ならではです。「『自立と体験1』を受けたいから明星大学に進学したい」という高校生の声も届いています。やりがいがありますね。
「学び続ける力」と「協働する知性」
山中准教授 別のお話も聞かせてください。落合学長は「学び続ける力」と「協働する知性」ということを、これからの明星大学の教育で重視されています。まずは学び続ける力を身につけるため、あるいは深めるために必要なことは何だとお考えでしょうか?
落合学長 やっぱり、人を人たらしめる「好奇心」ではないでしょうか。国や時代、社会的立場などを問わず、人間は好奇心を持ちますよね。
明星大学では、<最初の「探索」を「自立と体験1」で、「探究」の第一歩は各学科で>というように初年次教育を構成しています。両面から学ぶことは、学生のさまざまな好奇心に結びつきます。探究的な専門教育を一定程度深めた2年生後半で、ふたたび探索に立ち戻り、学部・学科合同のクロッシング学修を行うというアイデアも、私は温めているんです。
山中准教授 好奇心が、学び続ける力の原動力になる。というわけですね。
落合学長 その通りです。しかし、その好奇心もさまざまな交わりを経て移り変わっていくかもしれません。また、同じ専門領域のなかでも、学生によって好奇心の働き方が違うことでしょう。「学修者本位」の立場から、その自由度をできるだけ尊重したいものです。
山中准教授 では、次の質問に移らせてください。私が代表を務める『COPERU PROJECT』では、学生同士、または小・中学校の児童・生徒同士の協働作業が数多くあります。「協働する知性」が必要になるときとは、具体的にどのような場面だとお考えですか?
落合学長 深い質問ですね。世の中を見ると、「二極化」と「多様化」が同時に進んでいますよね。たとえば、会社の利益の最大化が大事だという集団主義的な考え方があります。反対に、一人ひとりの価値観が優先されるべきだという個人主義的な考え方もあります。これらが大きく分かれてしまっている状態が「二極化」です。一方「多様化」とは、仕事が画一的な工場労働型から個々人の力量が問われる情報労働型に変化するなかで、均質性より多彩性が許されるようになり、いろいろな人がいたほうが良いというようになってきた状況のことです。
「二極化」と「多様化」が並走する社会では、さまざまな価値の対立や競争があります。そうしたなか、人はそれをいろいろ組み合わせて、満足や幸福をできるだけたくさん生み出そうとする。それを可能にするのが「協働する知性」だと思うのです。しっかりした専門性をもちながら、さまざまな分野につなげていける力を備えた学生が、豊かな人生を歩んでくれるのではないでしょうか。
山中准教授 私も「学生が伸びていくためには、大学はどうあるべきか」と思ったときから、大学は、自らの好奇心を掻き立て、他の人との交流から創造性を生み出せる場であることが大切だと考えてきました。そうすれば、専門性を活かして、世界をどんどん広げていける。私の考えと落合学長がおっしゃった言葉は、響き合いますね。
落合学長 学生も、山中先生や私のような教職員も、21世紀をともに生きていく仲間ですからね。「学び続ける力」と「協働する知性」は、だれもが必要とする力だと考えています。
チャールズ・オライリー、マイケル・タッシュマン共著『両利きの経営』(東洋経済新報社、2019)に「深化」「探索」という言葉が登場します。既存の事業を深めていくことを「深化」、新しい事業を開拓していくことを「探索」と呼んでいます。教育にかかわるこの対談では、専門分野のセントラルな学びを「探究」、交わり広がるクロッシング型の学びを「探索」という用語で示しています。
・「自立と体験1」については、こちらをご覧ください。
・コロナ禍のためオンライン授業となった2020年度の「自立と体験1」。いったいどのように授業が運営されたのでしょうか?こちらをご覧ください。
「自立と体験1」は2014年度に日本高等教育開発協会の Good Teaching Award を、2019年度には初年次教育学会第1回教育実践賞の最優秀賞を受賞しました。
――次回の「学長が聞く、学長に聞く」は、12月末頃の公開を予定しています。お楽しみに!