学長が聞く、学長に聞く―第6回―地域とつながり話題を生み出す仕掛け人(前編)
田原 洋樹 特任教授(経営学部経営学科)×落合 一泰(学長)
2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップを記念した『ラグビーボール型もなか』。そして『東秋留グルメマップ』。経営学部の田原特任教授は、授業やゼミを通して地域とつながり、話題を生み出す取り組みを次々と実現しています。企業での勤務、起業、社会人大学院での研究、そして大学教員としての教育活動など、田原先生は幅広い経験の持ち主です。今回は「人材育成」をテーマに、明星大学での取り組みと、ご自身をいかに「人材育成」してきたかを伺いました。
地域のために、何ができるかを考え抜く
落合学長 私は、今日の対談をとても楽しみにしていました。というのも、先生のように現場と学問を往復していくことは、本学の教育方針である「実践躬行の体験教育」の体現だからです。その意味で、先生のこれまでのキャリアにも興味をひかれます。今日は、地域と連携してさまざまな企画を仕掛けてきた先生の本学での教育活動と、先生ご自身のキャリアのお話の両方を伺えればと思っています。
田原先生は、JTBやリクルートなどでお勤めの経験をお持ちでしたよね?
田原特任教授 はい。大学を卒業して15年間JTBに勤めていました。そのとき、地域との関わりや観光振興について関心を持ちました。地域には人口減少や高齢化など課題が山積みです。ですから、そうした問題とどう向き合い、どう解決したらよいかを産官学が連携して考える必要があります。地域活性化に関わることの楽しさと難しさを感じながら、学生たちと一緒に解決策に取り組んでいます。
落合学長 具体的には、どのようなことに取り組まれているのですか?
田原特任教授 本学の地元、日野市にある創業60年の老舗和菓子メーカー・株式会社紀の國屋と、『ラグビーボール型もなか』などコラボスイーツを3年連続で考案・販売してきました。あきる野市との連携では、『東秋留グルメマップ』『あきないあきがわグルメマップ』の制作・配布を学生と行っています。さらに、プラネタリウムを併設したカフェ『あきる野プラネットカフェ』の運営なども行っています。さまざまな企画に学生が主体性を持って取り組んでいるのを見るのは、嬉しいことですね。
【あきる野プラネットカフェ】
イベント内容を紹介したプレスリリースが『大学プレスセンター ニュースアクセスランキング(2019年12月~2020年11月)*』で年間12位にランクインし、地域に根付いた取り組みでありながら幅広い注目を集めました。
*大学通信調べ。『サンデー毎日』2021年1月3・10日合併号掲載
落合学長 どれも地域の魅力に光を当てる面白い取り組みですね。企画の実現に向けて、どのように学生を導いているのですか?
田原特任教授 どの企画も「学生は何をやりたいか?」から始まります。私は前提となる一定のルールだけ、学生に伝えます。そこから先は、自由に考えてもらっています。
落合学長 ルールとは、どのようなものですか?
田原特任教授 最初に「税金を使って活動していることを忘れないように」と伝えています。備品などは必要最低限にとも言っています。それから基本的な話ですが、「その地域にどんなメリットがもたらされるのか?」「何が地域の人のためになるのか?」を考えようと。そういった前提条件を学生に意識させています。
落合学長 好き勝手に考えればいいというものではない、と。
田原特任教授 はい。『あきる野プラネットカフェ』では、市民の方に地域の素敵なところをボードに書いてもらい、笑顔の写真を壁一面に張り出しました。そうすると、それをご覧になった皆さんが自分たちの街にはこんないいところがあったんだと、とても喜んでくださったんです。学生たちがあきる野市のことをしっかり考えた抜いた上で立てた企画だったからこそ、そうした成果が得られたんですね。
落合学長 笑顔が新たな笑顔を引き出す。素敵な取り組みですね。
▲『あきる野プラネットカフェ』でのひとこま
▲学生が店舗を取材して作成した『東秋留グルメマップ』
学生のために、何ができるかを試行錯誤する
落合学長 お話を伺っていて、体験教育には2つの側面があると感じました。ひとつは、先生の熱意や魅力で学生たちを巻き込んでいく、自由に活動する「運動」としての体験の部分。もうひとつは、授業内でルールづくりをしたりシラバス化したりする、教育の「制度」的な部分です。田原先生の授業は、魅力的な教育・学修に不可欠である「運動」と「制度」の両方を備えていると思います。先生は、そのバランスをどのようにとっているのでしょうか?
田原特任教授 実は、長年そこで苦労しています。体験教育というのは、どうしても学生のやる気の濃淡が出てきてしまいます。自由にやっていいよと言うと、やる気がある人は自分から動いていきますが、そうでない人は何をしていいのかわからず他人に委ねてしまう。そうならないようにやる気がない人に合わせていくと、今度はやる気がある人がトーンダウンしてしまう。ひとつの「運動」にまとまりにくいのですね。なので、最近は地域活性化に関する理論的な枠組みや、他地域の成功事例などをあらかじめインプットしています。そのようなシラバス構成をとって「制度」面を少し強調し、そのあと現場に出てもらうようにしています。
落合学長 なるほど。現場に行って、感じろ!というのではなく、少し「制度」的な面を強調した教室での学修と、発見の多い「運動」としての現場での学修の往復を、柔軟に組み合わせているのですね。
田原特任教授 試行錯誤しながらやっています。その意味では、去年は体験教育のあり方について考えされられることが少なくありませんでした。コロナ禍の影響で、1年生の「ビジネス実務基礎」という授業をオンラインでやらざるをえませんでした。紀の國屋さんとのコラボも、オンラインで行ったんです。そうしたら、160人の学生が個性的でクオリティーの高いアイデアを出してくれて、お店の担当の方からも、これまでの3年間で一番!という評価をいただきました。
教室でグループワークをしなかったにもかかわらず、いや、グループワークをせずに一人ひとりが自分で考えたからこそ、ハイレベルのものができたのです。これは私には衝撃でした。また同時に、大切な気づきをもらいました。これまで私たち教員は、グループワークをすればいいアイデアが出るはずだと信じ切っていたのです。
落合学長 個人より集団のほうが、優れたアイデアを生み出すはずだと。
田原特任教授 はい。教員がグループワークに頼りすぎていて、多様なアプローチを考える工夫を怠っていたのではないか?そう反省しました。そこで今年度は、対面のグループワークとオンラインの個人ワークをハイブリッドでやってみようと計画中です。
落合学長 グループと個人の掛け合わせのなかから、どんなアイデアが出てくるか楽しみですね。
田原特任教授 はい。特に今年の経営学部の2年生は、1年生のときはコロナ禍で大学にほとんど来れられませんでしたから、対面への想いも高まっていると思うんです。そのエネルギーをうまく形にしてもらえるよう、サポートしていきたいと思っています。
落合学長 デザイン学部でも地域と連係したフィールドワークを行っているのですが、あるとき、そのことを経営学部の学生に尋ねたところ、「へー、知らなかった」と言ったんです。そして、「学部を越えた合同プロジェクトを一緒にやったら、絶対おもしろくなる!」と目を輝かせていました。本学が目指す、分野を越えて協働するクロッシングを、学生たち自身がやりたがっていたのです。田原先生は、このような学部を越えた連携について、どうお考えですか?
田原特任教授 とてもいいことだと思います。例えばデザイン学部とは、取り組みに重なる部分も多いので、それぞれのアプローチを融合すれば、コラボレーション先の会社や自治体は、明星大学のことを改めて良い連携相手と見てくれるのではないでしょうか。
後編へ続きます