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「日本人の自己肯定感の低さ」にデザインの力でアプローチ。心に寄り添うゲームの提案

「デザイン」と聞いて、皆さんはどんなイメージを思い浮かべますか?「色」「形」「見た目の美しさ」・・もちろんこれらは重要な要素です。が、それはデザインの一要素に過ぎません。明星大学デザイン学部では、人や社会の流れを良くする「仕組み」を作ることをデザインと定義しています。

デザイン学部デザイン学科4年生の三富瑠音さんは「日本人の自己肯定感の低さ」をデザインの力で解決できないかと考え、「心に寄り添うゲーム」の開発に乗り出しました。三富さん自身が悩み苦しみながらも乗り越えてきた壁、デザイン学部で学んだ4年間、そしてこれからのことについて、話を聞きました。

弱みは強みに転じる

――「心に寄り添うゲームの提案」に至った背景は?
周りに自己肯定感が低い人が多いと感じていたことがきっかけです。そして自分自身も同様に自己肯定感が低いことに悩んで友人に相談したときに、「自分の弱みも含めて受け止められるのは、むしろあなたの強みなのではないか」と言い直してくれたことがありました。自分で弱みだと感じていた部分を肯定的に表現してもらえたことが救いとなり、これをゲームという形に落とし込むことで、自己肯定感の低さに苦しむ多くの人に寄り添えたらと考えました。

――なぜ「ゲーム」だったのでしょうか?
自己肯定感を上げるには、失敗を積み重ねた先にある達成感、成功体験が必要です。実社会ではなかなか失敗が許されない場面もある中、ゲームであればそのプロセスを手軽に体験できるのではないかと考えました。あとは、私がゲームが好きだったというのもあります(笑)。

――今回の卒業研究で苦労した点は?
デザイン学部では、「意味のない、理由のないデザインはデザインとは呼ばない」ことを徹底して叩き込まれます。なぜゲームなのか、なぜこの設定なのか、客観的なデータに基づいて説得力をもって説明できなければいけません。明確なコンセプトを掲げ、細部まで一貫してデザインすることがデザインの本質でもあり、難しくもありました。

ライカトップ

キャプチャ

▲三富さんが開発しているゲーム「ライカ」。キャラクターの悩みを聞き、カウンセリングを行う。相手の悩みを肯定的な表現で言い換えるプロセスを通じて、自分を肯定できるようになっていく。

リンク: 三富瑠音 卒業研究 「心に寄り添うゲームの提案」

「人に頼る」力

――プレゼンテーション力を鍛える「企画表現4」の授業では、泣きながらも食らいついて飛躍的な成長を遂げたと聞いていますが・・
もともと話を組み立てたり人前で話をするのが苦手だったのですが、「企画表現4」の授業で初めてプレゼンに立った時、足も声も震えて全然できなくて、その時授業を担当していた西本剛己先生に泣きながら相談したんです。それに対して西本先生は、「この授業を受けていれば絶対にできるようになる」と断言しました。「断言!?」と驚きながらも、そこから食らいついて実践と改良を重ね、結果的にクラスのプレゼン代表を務めるまでになりました。デザイン学部で鍛えたプレゼンテーション力は就職活動でも活き、希望していた就職先で内定を得ることができました。

――苦しいときに、妥協したり、逃げたい気持ちにはならなかったですか?
自分だけで完結することならまだしも、熱心に教えてくれる先生方や同じ環境で頑張っている人たちに中途半端な姿は見せられない、周囲の期待に応えたいと思って頑張れました。周りの人や環境に恵まれていたんだと思います。
自分のできていない部分をさらけ出せば、助けを得られ学びを深めていける環境が明星大学にはありました。デザイン学部での4年間は密度が濃く正直キツかったですが、その分すごく成長できたと実感しています。

――就職活動はどうでしたか?
最初は全然ダメでした。昔から何をするにも最初からうまくできることがないんです。全然できないところからスタートして、できるようになるまで頑張り続ける、人に頼る。この積み重ねで就職活動も大学生活も乗り切りました。「自分の好きなゲームを仕事にすること」についても迷いがありましたが、インターンシップ先の人事の方に話を聞いてもらいながら自分の考えを整理し固めていきました。

――卒業後、これからのことを聞かせてください。
4月からは、ゲームソフトの制作・開発を行う株式会社バンダイナムコスタジオに就職します。
最終的には自分の考えたゲームを世に出したい。そのゲームが誰かの人生の一部になればいいなと考えています。今回卒業研究で提案した「心に寄り添うゲーム」についても引き続き開発を進め、リリースしたいです。

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インタビューを終えて

自分の弱みを受け入れ、それを周りに発信して助けを求めることができる強さ。周りのあらゆる物事に真摯に耳を傾けて、常に何かを吸収していく柔軟さ。この根底には「人の役に立ちたい」という強い気持ちがあり、それが周囲に伝わるからこそ助けの手が差し伸べられるのだと感じました。

実は記事中に出てくる「企画表現4」のエピソードについては、授業を担当していた西本剛己教授の著書『君の人生は大丈夫か?』(幻冬舎より2021年4月に出版予定)に登場します。この記事のしめくくりに、その一文をご紹介します。

いずれにせよ、緊張など無くならない。それに緊張するのは一生懸命な証拠だ。ゆえにそれはプレゼンする相手に対しても、まずもって失礼なはずがない。だから大事なのは、絶対にそこから逃げ出さないことだけだ。

僕は毎年のように素晴らしい実例を見ている。あるとき、プレゼンの仕方を教える授業のごく初期段階で、一人の女子学生が僕のところに来て、「みんなすごいのに、私だけレベルが低くて、とてもついていけそうになくて」と言ってポロポロ泣き出した。僕はそれに対して「はあ?君が何を言っているのか全然分かりません」と答えた。

その後も緊張と恐怖で、その学生はプレゼンのたびに多くの同級生たちの前で泣いた。それでも僕はおかまいなしに、まだ改良すべき点を指摘し続けるものだから、教室全体も緊張で静まり返る。情け容赦ないとはこのことだ。そして僕は全員に向かって言った。「泣くことなんて少しも悪くない。なぜ泣くのか?必死だからだ。必死にやっている人間を馬鹿にする者など絶対にいない!」 

その後その女子学生はどうなっただろう?自分には能力がないと思っているから、彼女は自分へのアドバイスばかりか、他の学生に対するアドバイスも自分ごととして懸命に実践し続けた。そしてわずかその数カ月後、僕自身が彼女をクラスのプレゼン代表に選んでいた。その急成長にはさすがに僕も驚いたが、一番驚いたのは、おそらく本人だろう。彼女はその半年後の、もっと厳しいプレゼンの授業でも自らプレゼンターを買って出るようになり、いよいよ就活が近づいたさらに半年後、企業のインターンシップで、担当者から一番プレゼンがうまいと言われたそうだ。そして結局、第1志望の超一流企業から内定をもらうことになる。

それで彼女は緊張しなくなったのか?絶対にそんなことはないはずだ。僕だって未だにに緊張するのはイヤだ。ところがどういうわけか心のどこかでそれが病みつきになって来て、またあれを味わいたいと思うようになる。そうなったらしめたものだ。自ら修羅場の数を増やすようになるわけだから、あとは放っておいてもプレゼンは上達してしまうのだ。

ー 西本剛己 著 幻冬舎『君の人生は大丈夫か?』(2021年4月出版予定)より抜粋