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学長が聞く、学長に聞く―第12回―明星大学のもうひとつの顔・通信教育課程 (前編)

菱山 覚一郎(通信教育課程長)×落合 一泰(学長)

1967年の開設以来54年の歴史を持つ明星大学通信教育課程。大学卒業後の教員免許取得や現職教員の資格向上など、多様なライフステージに寄り添いながら教員養成を実現しています。生涯にわたる学びとキャリアアップを支える通信教育課程について、その特長や急速に進む教育環境のデジタル化など、なかなか知ることのできないお話を幅広く伺います。

高等教育の提供から、資格取得の場へ。

落合学長 明星大学は、幼稚園から大学院までを有する明星学苑という総合学苑の一員です。総合大学として9学部12学科がワンキャンパスにあり、さらに通信教育課程も設置しています。私は以前から、さまざまな目的を持つ学生が学ぶ通信教育課程が、本学にある種の懐の深さを与えていると感じてきました。今回は、そのことについて課程長の菱山先生にお話を伺いたいと思っています。まず、本学の通信教育課程の歴史についてお聞かせいただけますか? 

菱山課程長 本学の通学課程ができたのは1964年です。その3年後の1967年に通信教育課程が開設されました。時間的・経済的な余裕がない方に対して機会均等の観点から高等教育を提供しようというのが開設の趣旨でした。最初は、課程を修了しますと小学校教員の免許が取得できました。その後2010年に通学課程の組織改編があり、通信教育課程も改組を行いました。そこからは小学校教員だけでなく、中学校、高等学校の免許なども取得できるようになりました。当初は高等教育の提供を目的としていたのですが、そこから教員資格を取得する学修の場へと大きく舵を切ったわけです。

1967年の第1回スクーリング。年齢はさまざまですが、どの学生の表情にも勉学への意欲が満ちています。

落合学長 通信教育課程に大学院を設置しているのも、本学の大きな特長ですね。 

菱山課程長 大学院は1999年の開設です。全国で初めて開設された通信教育制大学院のひとつでした。当時から、大学院生には学校の先生、研究者をめざす方が多くいました。仕事を持っている方が多数なので、夏休み、冬休みの期間などを利用し、集中的に講義を行っています。

教員免許取得をめざして、多様な人が学ぶ場所。

落合学長 現在の通信教育課程では、どのような学生が学んでいるのですか?

菱山課程長 まず、高校卒業後に4年かけて、学士号の取得を目指す学生です。つぎに、新たに教員の資格を取得してキャリアアップをめざす社会人の方々。そして一番多いのが、いま持っている資格以外の免許の取得をめざす現職の教員のみなさんです。その場合、受講するコースによって異なりますが、目標達成には最短でも2年かかることが多いです。 

落合学長 目標達成への意志の強いみなさんが学んでいるのでしょうね。具体的にはどのように勉強するのでしょうか? 

菱山課程長 自学自習が基本です。課題レポートを提出し、教員が添削をして手元に返す。レポート学習が進むと、次の段階として試験を受ける。 試験に合格したらその科目の単位を修得できる。このような流れです。申すまでもなく、本学苑の掲げる教育方針「手塩にかける教育」に即して対面型の教育も重視しています。ゼミ形式の授業や少人数の授業、実技系の授業は対面が基本です。コロナ禍の下でも、演習の授業や技術の指導は対面で行っています。 

コロナ禍前のこのスクーリングの雰囲気を早く取り戻したい…
Web学習相談の様子。自宅などにいながら相談できるのが好評です。

落合学長 コロナ禍の影響で、通学課程では遠隔授業が取り入れられるようになりました。しかし、通信教育課程はもともと遠隔を前提にしているわけですよね? 

菱山課程長 本学の通信教育課程には、都内近県に限らず、日本全国に学生がいます。本学に来校するのが難しい方もいます。ですからオンラインで教材を提供していますし、新型コロナウイルス感染症が発生して以降、スクーリングなどでは遠隔授業も展開しています。

本学では、パソコン、情報端末機器を持っていることが出願の条件です。レポート提出や各種手続きのオンライン化も進んでいます。それは、教育現場で、いま盛んにデジタル化が叫ばれていることとも関係しています。たとえば文部科学省のGIGAスクール構想では、すべての子どもに情報端末機器を持たせるという指針が示されていますね。現場の先生方には今後、そうした機器を使った授業ができる、指導ができる能力が求められるようになるということです。ですので、学生が自分でオンライン授業をつくれるようにする科目も開設していきたいと考えているんです。

落合学長 それは大事ですね。オンラインを積極的に取り入れて、社会的要請を先取りしてきたのですね。ところで、通信教育課程における「学期」とは、どういうものなのでしょうか? 

菱山課程長 明星大学の通信教育課程には4月生と10月生がいます。年に2度、入学の機会があるわけです。しかし、それぞれに出願期が5回ずつ、年に10回あって、入学許可が出れば4月や10月より前に早めに勉強を始めたり、5月や11月に少し遅めに入学許可を得て勉強にとりかかったりすることもできます。

ですので、本学の通信教育課程には学期に縛られて単位を修得していくという感覚がないんです。先ほど説明しましたように、科目を履修して、レポートを提出して、教育の添削指導を受けた上で試験を受けて合格すれば科目ごとに単位が認められます。本学の場合、学修者の便宜を図ろうと、試験を年に8回設定しています。通学課程の学期末試験よりずっと回数が多いんです。つまり、どのタイミングに照準を定めて入学するか、どのように勉強を進めて単位を修得するかを一人ひとりが自分で決めて、自身で学修プロセスをデザインしていく。それが本学の通信教育課程の基本的なスタイルなんです。

落合学長 そして取った単位を積み重ねていく、と。 

菱山課程長 はい。希望している免許の申請に必要な単位数を学生自身が理解し、単位修得に向けた作戦を立てて学んでいます。 

落合学長 学生一人ひとりが卒業要件を理解し、自分のモチベーションと学修プロセスそして学修成果を自己管理して卒業に至る。それこそが、私が通学課程で確立を目指している「学修者本位」の学び方なんです。それが通信教育課程ではすでに実現しているわけですね。

通学課程でも、学生一人ひとりが入学後の自分の学修をデザインするようにして、例えば入学から卒業まで8学期あるから7学期で全単位を取る計画を当初から立て、残りの1学期を海外留学にあてたり、資格取得のためのダブルスクールに使ったりする。このような新しい学びの仕組みができれば、「学修者本位」の学修の実現に近づけるのではないかと思っているんです。本学の通信教育課程の学びの形は、そのヒントになりそうです。

充実の学修環境で、それぞれの目標達成をめざす。

落合学長 他大学にも通信教育課程がありますが、明星大学の通信教育課程の特色はどのような点でしょうか? 

菱山課程長 仕組みの面では、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校、保育士の複数免許が取得できることです。中学校・高等学校の教科としては、国語、社会、数学、理科、英語、音楽※、美術※の免許が取得できますが、通信教育で理科の免許が取得できるのは、実は全国で本学だけです。 

※ 2022年度は音楽及び美術の教員免許状関連科目の開講を行いません。そのため、音楽コース、美術コースの募集はありません。

落合学長 なぜ、他の大学では免許が取得できないのですか? 

菱山課程長 理科の場合は物理、化学、生物、地学の4つの分野で実験科目を揃える必要があるんです。それぞれに対応する教員をそろえておかなければなりません。また、通学課程に理科の免許課程がないと、通信教育課程に理科の免許課程を設置することができない決まりがあるんです。そうした条件もありますので、設置できる大学が限られてしまうわけですね。 

落合学長 重要な点ですね。他に、明星大学ならではの特色はありますか? 

菱山課程長 実務経験のある先生たちに教壇に立っていただいている点、これも大きな特色だと思います。学校現場で長年教員をやってきた方々、教育行政に関わってこられたみなさんだからこそ、教育現場の課題や可能性を新鮮に伝えることができるんです。

教職に関する疑問を気軽に相談できる教職サロン。校長経験者の教育実習指導担当の教員が幅広くアドバイスします。

落合学長 学生の反応はどうですか? 

菱山課程長 希望する教員免許が取得できることに満足している学生が多いですね。授業の事後アンケートを見ますと、現場経験者の先生が直に教えてくれることに学生も学修効果を感じているようです。満足度も高いんです。 

落合学長 狙い通りですね。本学通信教育課程の入学者数や教員採用試験の合格者数はどうでしょうか? 

菱山課程長 現在、在籍者数は6,000名ほどです。入学者数はコロナ禍の影響もあり変動していますが、ここしばらくは毎年2,500名~3,000名で推移しています。公益財団法人・私立大学通信教育協会の2020年度データによりますと、教育系通信制大学では、学士号取得を目指す正科生の在学生数で明星大学は全国1位です。教員採用試験の結果を見ますと、本学通信教育課程からは毎年350名から400名くらいが合格しています。直近の2021年度は359名で、6年連続で350名を超えるという実績を残しています。 

落合学長 それは快挙ですね。この実績をもっと広く世の中に伝えたいですね。みなさんどのように本学を知って、入学されるのでしょうか? 

菱山課程長 現職の先生方が入学するときに多いのが、人の勧め、つまり口コミです。明星大学の通信教育課程で学んだ方々が、自分の満足した経験を卒業後に広めてくださっているようです。 

落合学長 それは嬉しいことですね。人格接触を大事にしてきた本学らしい側面だと思います。 

後編へ続きます。


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