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学長が聞く、学長に聞く―第13回―2023年4月、明星大学に「データサイエンス学環」誕生!※ (後編)

※データサイエンス学環は設置構想中です。ここに記載の内容は一部変更になる場合があります。

篠原 聡(副学長・情報学部教授)×落合 一泰(学長)

前編では、2023年4月に開設予定の「データサイエンス学環」の概要について、構想の中心メンバーである篠原副学長にお話を伺いました。後編では、学環が社会で果たす役割や、他学部の学生たちに与える影響、また、大学全体でのデータサイエンスリテラシー教育に関することなど、新たな明星大学教育のこれからについて幅広くお話しいただきました。

データサイエンスが、社会に果たす役割とは?

落合学長 ここからは「学長に聞く」ということで、篠原先生、私にお聞きになりたいことをなんでもおっしゃってください。 

篠原副学長 いくつか質問を用意してきました。まず1つ目。前編で多摩地域について触れましたが、この地域にデータサイエンス学環ができることには、どんな意義があると学長は考えていますか? 

落合学長 明星大学は1964年に多摩に生まれ、これまで多摩に育てられてきた大学です。多摩に対して感謝と敬意を強くいだいているのは、私だけではないでしょう。だからこそ、学術機関として多摩に返礼をしたいといつも思っています。そして、多摩と明星大学が一緒に何かをつくり上げていくことができれば何よりです。ならば、明星大学にデータサイエンス学環ができ、多摩が今後必要とする新しい分野の開拓に向かおうとしていることを、大学の方から発信していきたい。そこに大きな意義があると思っています。 

篠原副学長 同感です。続いて2つ目の質問です。落合学長はELSIに関心をお持ちだということですが、なぜそこに着目されるようになったのでしょうか?ELSIの頭文字になっている倫理的・法的・社会的課題は、まさにデータサイエンスの分野でも、概論科目や演習・実習の中で触れていく必要があると考えているところなんです。 

ELSI
倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues)の頭文字で、エルシーと読みます。新しい科学技術を研究開発し社会実装する際に生じうる、無視できない人文学的・社会科学的な課題を総称します。

 落合学長 欧米では、科学技術が突出してしまったときに起こりうるさまざまな問題が、かなり早くから意識され議論されてきました。例えば、生命科学ではクローン作成が可能になっています。そうした技術はどこまで容認できるのか?その根拠は?そうやって生まれてきた生命をどう位置付ければいいのか?そうした倫理的、法律的な問題を積み残して技術だけ進めるのは危険です。科学者も、「私は科学技術の専門家なので、それ以外は分かりません」ではもう通用しません。データサイエンス学環の学生はもちろん、他の理系学部の学生にも、また人社系・融合系学部の学生にも、こうしたことをもっと教えるべきと思ったのがきっかけです。 

篠原副学長 自動運転の車が事故を起こしたときに、誰の責任になるかということも最近ニュースになっていますね。AIを牢屋に入れるわけにもいかないので、どうするのかと。 

落合学長 はい、そうしたことも含め、最近はいろいろな分野を重ね合わせていかなければ解決できない課題があることが意識されるようになっています。そうした最新の動向を踏まえ、2023年の全学共通教育のカリキュラム改編を機に、「ELSI(科学技術における倫理的・法的・社会的課題)」という科目の設置に踏み切りました。ELSI論だけではありません。単一分野の勉強だけでは解き明かせない複合的な課題にアタックしようと、明星大学は分野交差型のアプローチをとる「クロッシング科目」を数多く開講していきます。 

篠原副学長 社会に出ても、理系や文系の枠に閉じこもっていられなくなっていますよね。その意味でクロッシング科目の開講は、とてもいいことだと思います。ELSI論は、データを利活用する意味や意義を、広く社会に説明する時に必要になる素養です。科学の最先端を学ぶデータサイエンス学環の学生にはぜひ履修してもらいたいと思っています。 

落合学長 ぜひそうしてください。ELSI論は、哲学と生物学の先生がタッグを組んで最後まで一緒に進めていく授業 ですので、おすすめです。これからの時代、AIが速度を上げて発達していくことでしょう。それでも人間が総合的な最終判断を下さねばならない場面が出てくる。そこでは、理系、文系を問わない幅広い知識をもっていることが判断者の条件になるにちがいありません。

全学生が身につけるべき、「データサイエンスリテラシー」とは?

落合学長 ところで、2023年度からの全学共通教育には、データサイエンスの基礎科目も新設されますね。科目名は「データサイエンスリテラシー」、全学部の学生が対象の必修科目です。こちらはどんな内容になるのでしょうか? 

篠原副学長 これからの時代にすべての学生が身につけておくと役立つ素養として、リテラシー(基礎)レベルでのデータサイエンスに関する学びを用意します。「自分のデータがどう活用されるかわからないから提供するのが怖い」、あるいは、データ分析の示された結果に対して「よくわからないから言われたまま受け入れる」ということも、今はあるかもしれません。データサイエンスに関する正しい知識を身につけてそうした不安や不確かさをなくし、データを集める側と提供する側の両方が一緒になってよりよい社会をつくっていけるようにしたいと思っています。 

落合学長 それはいいですね。人文学部や教育学部の学生でも、本学に入学したら全員がデータサイエンスの素養を身につけて卒業していくという仕組みですね。 

篠原副学長 「データサイエンスリテラシー」以外にも、やりたいことがいろいろあります。データサイエンス学環の学生と他学部の学生が垣根を越えて演習などでコラボレーションすることで、この分野に対する理解と親しみを深めてもらえるといいなと夢見ています。 

落合学長 せっかく9学部12学科がワンキャンパスにある中に、新たな学環が加わるわけですからね。そういうクロッシングの可能性は大いに開拓していきたいものですね。

明星大学では初年次から学部の垣根を越えたグループワークを必修にしています。写真は 学部横断型初年次教育「自立と体験1」のひとこまです。

デジタルとリアルの良さを融合した、明星大学ならではの学びを。

篠原副学長 3つ目の質問です。データサイエンスの話から少し逸れますが、明星大学教育新構想を示す「7+1のキーワード」のなかに、「デジタルとリアルの融合」として、普段の学修の中にデジタル技術やデータサイエンス的な要素を取り入れていくことが掲げられています。これらを本学で推進する意義は、どんなところにあるとお考えですか?

 落合学長 これから本学に入ってきてくれる人たちは、いわゆるZ世代です。生まれたときから高性能なスマホが手近にあるのが当たり前の世代です。SNSでも、クリエイティブなことでも、常にいろいろなことを、デジタルを介して考えている。何か勉強しようと思ったときにも、本を開かず、まずYouTubeを観るのではないでしょうか。就職先を探すのも、最初からネットです。そういう人たちからしたら、大学がテクノロジーを導入するなんて話は、「まだそんなこと言っているの?」でしょうね。ですから、教学のDX化はもはや当たり前のことだと私は考えています。 

むしろ大事なのは、デジタル時代におけるリアルだと思います。特に本学は、教育目標に「人格接触による手塩にかける教育」を掲げています。教職員はもちろん上級生も含め、リアルな面倒見の良さが本学の特徴です。「うちの子供を入学させて初めて、明星大学が教職員・在学生がみな親切に対応してくれ る大学だと分かった」と、保護者の方々がよくおっしゃいます。キャンパスに集って学ぶリアルな環境を大切にしながら、デジタルネイティブの彼らとそれをどう結びつけるか。今後はここが大事になっていると予感しています。定評あるリアルを基盤として、そこに時代に即したデジタル技術を取り入れていきたいと思っているんです。 

デジタルとリアルをつなぐ別の例。分野が異なる情報学科と国際コミュニケーション学科 が、VR技術を使ってウズベキスタン観光用アプリケーションを協働で開発(写真は2020年1月の政府機関へのプレゼン時)。

篠原副学長 リモートに限らず、対面でもデジタル技術を活かせることがあります。コロナ禍のなかで授業をしていて、ひとつ大きな発見がありました。私がZoomを使ってリアルタイムで講義をしている最中に、別のツールを用いて学生同士でテキストデータのやりとりやディスカッションを行っていたんです。別のコミュニケーションチャンネルが、そこに生まれていたということです。それを見たときに、想像もしなかった新しい学びの可能性を感じました。リアルを大事にしている本学としては、このようにデジタル技術を活かしながら対面のよさをさらに増していければと思いました。 

落合学長 すばらしい適応ですね。教室での授業では、教員は学生に私語を慎んでほしいと思うものです。でも、自分の授業理解度について隣の人に確認したくなるのは自然ですよね。「こういう理解でいいんだよね?」というように。それをデジタルで行っていたわけですね。面白いじゃありませんか。 

ふと思いついたのですが、対面授業に集まった学生たちの試験の採点を、AIがやるというのはどうでしょうか?たとえばですが、全学共通科目「データサイエンスリテラシー」を履修する1学年約2,000人分の採点をAIに任せるのは、その授業にふさわしいようにも思うのですが。 

篠原副学長 確かに。逆に人間がAIを採点していくというのもアリですね。AIが採点することで生じる問題点に、学生たちが気づくこともいい勉強になりそうです。例えば、スマホに搭載されているSiri(シリ)やAlexa(アレクサ)のようなバーチャルアシスタントが出す答えには、まだ何となく違和感があると思います。そういったものとどう付き合っていくのか、管理していくのか。そうしたことを考えるという意味では、いい教材になるかもしれません。非人間とのコミュニケーションを経験していく第一歩としても。 

落合学長 「非人間とのコミュニケーション」というのは、面白い表現ですね。データサイエンスやデジタルの話をうかがっていると、次から次に興味が湧いてきて話題が尽きることがありませんね。 

篠原副学長 今回のテーマである「データサイエンス学環」から、少し横道に逸れてしまったかもしれませんが(笑)。 

落合学長 いえいえ、そうしたところにこそ学問の奥深さ、面白さが広がっているんですよね。 

篠原先生を中心に開設準備を進めているデータサイエンス学環は、世の中の流れから生まれた新たな学びの場です。今日のお話で、将来の夢はまだはっきりしていないけれど、そろそろ大学受験の準備を始めようとしているみなさんにも、データサイエンスを学んだ先にある可能性を感じとってもらえたのではないかと思います。「明星大学データサイエンス学環」で大いに勉強して、卒業後にはやりがいのある仕事を通じて幸福な人生を紡ぎ出していってほしいと、私は心から願っています。 

篠原副学長 私も同感です。好奇心の翼を羽ばたかせて、ぜひ一緒に学んでいきましょう。 

落合学長 開設まであと1年、第1期生の顔を見るのが待ち遠しいですね。篠原先生、本日はどうもありがとうございました。


明星大学データサイエンス学環 特設ページはこちら


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