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学長が聞く、学長に聞く―第14回―「多摩の里山を楽しむキャンパス」に~学部を越えて広がる、「みどりのキャンパスプロジェクト」(後編)

柳川 亜季(理工学部 総合理工学科 環境科学系 准教授)×落合 一泰(学長)

学内で「みどりのキャンパスプロジェクト」を立ち上げた理工学部の柳川准教授。前編では、プロジェクトが生まれた経緯や取り組み内容を中心に伺いました。後編では、柳川先生から落合学長に質問をぶつけてもらいます。このプロジェクト以外にも、2023年4月から全学共通科目で「クロッシング科目」がはじまるなど、学問の垣根を越えた学びがますます充実していく明星大学。これからの新しい学びについて、どんどん深掘りしていきます!

学問と学問の垣根を越えた「クロッシング科目」がもたらすもの。

柳川准教授 今日は、落合学長にお聞きしたいことを2つ持ってきました。まず1つ目。来年の4月から、全学共通教育科目で複数の学問をひとつの授業で掛け合わせて学ぶ「クロッシング科目」が始まりますよね。いろいろな学問が高い次元で連携して、知の幅を広げようという教育活動が卒業単位として認められるというのは、他の大学にないすごく素敵な試みだと思っています。落合学長は、このことをどのようにお考えですか?
 
落合学長 本学を特徴づけるいい科目が始まると、私も思っています。これまで、大学ではひとつの専門性を突き詰めておきさえすればよかった。でも、これからの時代はそうはいきません。たとえば、政治と経済と科学技術が複雑に絡み合っているのが現代です。これからは、分野間のつながりがもっと進むでしょう。それを理解した上で、私たちは生きていかなければならない。「政治学入門」「経済学1」「科学史」を別々に履修すれば現代が分かるとは言えないんです。
 
先ほど、建築学とデザイン学の発想の違いについて語ってくださいましたね。そうした話を授業で聴いて、「なるほど、ならばあの分野とこの分野を掛け合わせると何が生まれるだろう?」というように学生が発想してくれると面白い。そんな知的な探索経験を学生時代に重ねておけば、社会に出てから必ず役立ちます。来年度始まるクロッシング科目では、例えば哲学と科学、生物学と歴史学を掛け合わせる形で具体的問題を解きほぐしていきます。複数の先生が一緒に教壇に上がって議論しあうこともあるでしょう。そこが、教員が毎回入れ替わる、いわゆるオムニバス講義とは一味ちがうところです。この授業、絶対楽しくなりますよ!
 
柳川准教授 私も参加させていただく予定なので、今からとても楽しみです。

2023年度に始まるクロッシング型の全学共通科目。この画面をクリックし、「大学案内2023」の05ページをご覧ください。

ヒト、モノ、コトとのリアルな出会いが、やがて血となり肉となる。

柳川准教授 では2つ目の質問です。今回のプロジェクトでもそうなのですが、私自身いろいろな人と出会うことでここまで来られたと感じています。落合学長にとって、これまでで最も印象深い出会いは何だったんでしょうか?
 
落合学長 考えてみると、人生って出会いの連続ですよね。人との出会い、本や場所との出会い、素晴らしい演奏や芝居、展覧会との一期一会の出会い。そうした経験を通じて一人ひとりが目に見えない変化を重ね、人生をかたち作っていく。私の場合、20歳の時に政府間交換留学で1年を過ごした「メキシコ」との出会いが、自分の人生では決定的だったと思います。当時はインカ帝国のようなアンデス考古学に興味があって、スペイン語を覚えたいと思って留学しました。でも、滞在しているうちに、メキシコの人と自然と文化に強く惹かれるようになったんです。そうして現在を生きる人々に焦点を合わせる文化人類学に関心を移して、メキシコ研究を50年近く続けてきました。メキシコにはこれまで何十回と渡航してきましたし、合計すれば村や都会での現地生活は5年以上になります。でも、「お前がまだ知らない私の顔を見たいかい?」とメキシコに問い掛けられ続けているような気がするんです。だから、もっと知りたい、もっと出会いたいと思うんでしょうね。いい顔も怖い顔もあるのですが。メキシコに足を踏み入れる瞬間は、20歳のときと同じようにいつも新鮮です。馴れやあなどりはありません。知れば知るほど、新しい発見がありますし、新たな問いも生まれます。ですから、私は若いころにメキシコに出会ったというより、今も出会い続けていると言うべきなのかもしれませんね。
 
柳川准教授 ずっと出会い続けているって、素敵な感覚ですね。実は私も、20歳の頃に初めて行った外国がメキシコでした。いろいろな国から集まった人たちと、2週間くらいキャンプをしながらあちこち巡りました。その途中、私の価値観を大きく揺さぶる出来事がありました。
 
落合学長 それはどんなことだったんですか?
 
柳川准教授 とても綺麗な服を着た女の子が、小さな観覧車に乗っていて。よく見ると、同じ年頃の痩せた子どもがそれを人力で一生懸命動かしていました。格差の現実を目の当たりにしたんです。衝撃を受けました。その後はずっと、フィリピンのストリートチルドレンの就学支援活動をしています。村から親と一緒に観光地のセブ島に出てきたものの、仕事がなくて、子どもたちも学校に行けない状況で。緑豊かなところに住み続けていたなら、何とか食べていけていたかもしれないのに。あの日の出会いが、私の活動の原点になっています。
 
落合学長 直にふれた経験が、柳川先生に深く刻まれたのですね。柳川先生のその後の活動の原点になったということは、そのときの体験が血肉化したということなのでしょう。いま「血肉化」と言いましたが、大学教育にとってこれほど重要な言葉はないと私は考えています。学びを繰り返すうちに、それが自分のなかに根付き、意識せずにそれに沿った行動をとるようになる。それが「血肉化する」という言葉の意味なのですから。
 
血と肉ですから、まさに身体にかかわる、フィジカルな深い経験ですよね。インターネットのようなサイバー空間を利用した学びには、そうした身体的な広がりや深みはありません。映画鑑賞に例えるなら、映画館という同じ場所で同じ時にほかの観客と一緒に映画を見るという「同時同在」の経験と、自宅のパソコンでひとりネットフリックスを見る経験は、おそらく異なる。
 
コロナ禍が始まったとき、学生の学修の機会を保障しようと、明星大学は遠隔授業を大幅に取り入れました。いろいろ工夫して遠隔授業を「同時同在」に近づけようと努力しました。でも、教室に集って授業を共有する経験はなかなか再現できません。教室での一回だけの対面授業より、幾度も教材や資料を見直せる遠隔授業のほうが学びの質が高い場合もありますしね。それぞれに良さがあることを、私たちはこの2年間で学びました。両方の「いいとこ取り」をしたいところです。
 
こうした試行錯誤を経て、明星大学は今年度、授業総数の97%を対面授業に戻しました。この決断を下したのは、学生がキャンパスに集い先生や仲間と一緒に学びあう「同時同在」の実践こそが、学修経験を血肉化していくと私たちが信じているからなのです。本学は、学部の規模も大き過ぎずちょうどいい。学生さんと教職員が接しやすい環境です。学生がキャンパスでみんなと「同時同在」の経験を積み、一人ひとりがそれを自分の血や肉にしてくれればと思っています。
 
柳川准教授 そして、大学が予想もしなかったことに出会える場所になれば、もっといいですよね。
 
落合学長 おっしゃるとおりですね。フランスの詩人・劇作家ポール・ヴァレリーは、いい芝居とは?と問われ、「劇場を出た時に、風景がまるで違って見えたら、それがいい芝居だ」と言ったそうです。学生の皆さんには、ものの見方を大きく変えるような出会いを、本学でたくさん重ねていってほしいと思っています。

交わり、広がる。「クロッシング」の新たな未来。

落合学長 私からも、ひとつ質問していいですか?柳川先生は、「みどりのキャンパスプロジェクト」が今後どのように発展してくといいとお考えですか?
 
柳川准教授 遠い先の話になるかもしれませんが、みんなが多摩地域の大学に来たくなるようにしたいです。具体的には、この地域の大学が緑地でつながって、あの辺りに行くと楽しい大学生活を送ることができそうだと高校生たちに感じてもらえるようにしたいです。素敵な自然と幅広い学びがあって何かワクワクするような、日本中、世界中の人たちが集まる場所になればと思うんです。世界最大級のメガシティである東京都心のそばという、地の利も活かしていきたいですね。
 
落合学長 まったく同感です。多摩っていいですよね。私も近くに住んでいますが、暮らしやすいし、落ち着いていて仕事をする場所としてもいい。山やせせらぎを見ていれば心も休まります。その魅力を学生さんたちに感じてほしい。都心に隣接して便利でありつつ、別の文化圏を作っているのが多摩だと思います。多摩って面白そうだから行ってみよう!と思ってもらえたら、最高ですよね。
 
柳川准教授 本当にそう思います。最後にひとつうかがいたいのですが、これから先、私たちの「みどりのキャンパスプロジェクト」以外にも、学部学科や地域の垣根を越えてこんなことをやりたい!という声が生まれてくると思います。今後に期待することや、取り組みを促すようなことは考えていらっしゃいますか?
 
落合学長 みどりのキャンパスプロジェクトは、大学全体をカバーするクロッシングの初の取り組みです。でも、別に例外ではなく、新たなムーブメントに先鞭をつけてくれた第一号だと思っています。私は、さまざまな切り口のクロッシングが学内でいろいろ始まることをおおいに期待しているんです。とはいっても、教員や学生は他学部で何が行われているのか知らないことが多い。この対談シリーズ「学長が聞く、学長に聞く」を始めたのは、学外の皆さんに本学のことを知っていただきたかったからだけではありません。「こんな面白い研究している先生が学内にいるんだ!」「こんな取り組みで将来を拓こうとしている学生が隣の学科にいるんだ!」という学内広報にも役立てたかったからでした。これからは、専門分野の異なる学生や教員が語り合う場所も必要になるでしょう。明星学苑は2023年に創立100周年を迎えます。それを機に、そうした出会いの機会を設けたりできないか、考えているところです。
 
柳川准教授 面白そうですね。どんなふうに100周年行事を活用するのですか?
 
落合学長 例えば柳川先生が所属する理工学部の環境科学系に、「環境ウィーク」と題する催しを誰もが目にできるかたちでやってもらう。そのようなイベントを、各学部学科で順番に続けていってはどうかと思っています。いつもの周年行事なら、記念シンポジウムなどを内部的に開催して終わりです。そうではなく、自分たちの素の姿や可能性を外に向かって楽しく発信する。学友会のクラブ・サークル活動や、同じ明星学苑の明星高校の催しがあってもいい。地域の皆さんと一緒にやるのも面白いでしょう。明星大学には、こんなことをやっている人たちがこんなにいるのか!と、互いに知り合う機会が増えると一気にクロッシングが拡大するかもしれません。
 
柳川准教授 いやぁ、落合学長は、いつも新しいことを考えていますね。上手くいくかはわからないけれど、まずはやってみることが大事ですよね。すぐに結果が出ずに大変なこともあるかと思いますが、一人の教員として応援しています。
 
落合学長 嬉しいです。明星大学の可能性を探りながら、みんなで楽しい未来のキャンパスライフを創っていきましょう。今日は、どうもありがとうございました。


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