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学長が聞く、学長に聞く―第12回―明星大学のもうひとつの顔・通信教育課程 (後編)

菱山 覚一郎(通信教育課程長)×落合 一泰(学長)

前編では、明星大学通信教育課程の特長について、主に伺いました。ここからは、多様なバックボーンを持つ学生のこと、資格を取得したみなさんに望むこと、通信教育課程のこれからなどを深掘りしつつ、菱山課程長から落合学長への質問を交えてお話を伺います。教員になる夢を抱いているけれど、なかなか一歩を踏み出せない方がいたら、ぜひお読みください。本学の通信教育課程が、きっと背中を押してくれます。

多様な「学び続ける力」が交わって、お互いを高め合う。

落合学長 昨年3月、私は本学の通信制大学と通信制大学院の学位記授与式(卒業式・修了式)に出席しました。卒業生・修了生のみなさんとお話をする機会があったのですが、本当に立派な方が多いと思いました。職業に従事しながら学修目的を達成したいという強い意志を持ち続け、大きな努力の末に手にした学位にはたいへんな重みがあると、あらためて感じさせられました。菱山先生は、学生たちにどのような印象をお持ちですか? 

菱山課程長 本当に学ぶ意欲がある学生が多くて、学ぶ姿勢をこちらが学ばせてもらっています。私は教員で指導する立場ですが、通信教育の学生を見ていると、みなさんから学ぶことが多いんです。個性豊かな学生が多くて、自分の教育現場での体験を他の学生に話してくれるので、相互的な学び合いが実現しています。このことを、とてもありがたく思っています。 

落合学長 学生の社会人経験が多様で年齢にも幅がある通信教育課程ならではですね。 

菱山課程長 子どもを持つ人が教員を目指して通信教育課程に入学することがあります。子どもの保護者でもあるそうした学生と、現職の教員でもある学生の間で議論が始まると、見解の違いが生じたりして面白いんですよ。 

落合学長 例えばどんなことですか?

菱山課程長 「自分の子どものクラスと友達のクラスでは、宿題の数が明らかに違う。そんな時、教員はどう対応するのか?」、あるいは「自分の子と他の子では、先生の指導の仕方が違うことがある。なぜなのか?」というような話題のときです。学生たちは、それこそ教員採用試験の面接課題になりそうなテーマを、具体的によく議論しています。 

落合学長 小中学校の現場が学びの中で再現されている、と。

菱山課程長 元自衛官の方と20歳くらいの方が同じグループになったことがあります。いろいろな経験をお持ちの方の話を聞けてすごく面白かったと、互いに言っていました。 

落合学長 年齢や経験などの違いもそうですし、全国各地から学生が集まるのも通信教育課程の特性ですから、いま伺ったような興味深い意見交換が生まれるのですね。 

菱山課程長 ある地域の課題を他の地域の学生を巻き込んで議論できるというのはメリットですね。そうした学生たちの間には横のつながりも生まれていて、同窓会組織も活動しています。 

落合学長 同窓会の発展には学長として期待したいですね。本学の通信教育課程で学んだ多くの卒業生・修了生が全国各地で教員として活躍されていますが、評判はいかがですか? 

菱山課程長 本学の校風がそうだからなのか、温かい教員が多いと評判です。その輪は全国に広がっていて、提携している学習センターがある沖縄などでは、本学で資格を取得した教員の比率がかなり高いと聞いています。 

落合学長 日本全国から、また海外からも含め、さまざまな背景を持つ学生が教員になるために学んでいる。なんだか胸が熱くなりますね。身体の不自由な方もいらっしゃるのですか? 

菱山課程長 はい。入学時に自己申告していただき、可能な限り対応しています。以前、聴覚に障害のある方がいましたが、要約筆記などを使って学んでもらいました。

落合学長 通信教育課程のみなさんには「学び続ける力」を強く感じます。 

菱山課程長 同感です。現職の先生、社会人として働きながら教員をめざす方、高校卒業後に入学して教員をめざす方、いずれもたゆまぬ努力を重ねて「学び続ける力」を身につけている。私はそのことにとても感動しています。みなさんが続けた学びが、次世代の子どもたちに伝わっていく。そう考えると、私たち通信教育教育課程の任務は未来をつくっていくことでもある。身の引き締まる思いです。

落合学長 そうした世代を超えた大きな循環が、教育を通して社会全体を動かしていくのですね。一人ひとりの学生にとっても、通信教育課程はライフロングでの学びや学び直しを体現している。今後の大学には、そのように生涯にわたって学修を循環させ、「自分という資源」を豊かに活かしていくという考え方と仕組みが望まれていると思っています。 

菱山課程長 たしかにそうかもしれません。私も通学課程の授業を受け持っていますが、同じ「学び続ける力」でも、通学課程と通信教育課程では印象が違うんです。 

落合学長 ほう。詳しく話していただけますか?

菱山課程長 通学課程では、学生たちに「学び続ける力をつけさせたい」ということで、私たち教員は教育上の様々な工夫を凝らしています。通信教育課程の場合は、もちろん目の前の学生に「学び続ける力」をつけさせたいと思っているのですが、同時に、学生には次世代の子どもたちの「学び続ける力をつちかってほしい」と願っているんです。 

落合学長 通信教育課程の学生たちは、自身がすでに「学び続ける力」を体現している。ですから、その力を次世代の子どもたちにも伝えていってほしい、と。

通信教育課程 学位記授与式(2021年3月)

通信教育課程が描く、新しい教育の未来。

落合学長 学長として私は、本学の学びの在り方を示すキーワードのひとつとして、「探究」と「探索」という言葉を使ってきました(→「学長が聞く、学長に聞く」第1回後編)。「探究」とは自分の専門を深めていくこと。「探索」というのはできるだけいろいろなことをやって、それらの間のつながりに気付くことです。「探索」を通じて自分が「探究」してきた専門の活かし方を知り、そんな自分の「探究」を他の人々の「探索」の束に加えてみんなの横幅を広げていく。「探究」を縦棒、「探索」を横棒にたとえるなら、両方でT字型での学びの形になります。一人でT字型の学びに取り組んでもいいですし、みなでいろいろなT字型の学びの束を作っていってもいいと思うんです。

菱山課程長 一人ひとりの「探究」に基づく全体での「探索」。それは、落合学長がこの対談シリーズでしばしば言われている「クロッシング」という学び方ですね。その「探索」のためには「探究」のベースをきちんと築いてほしいということですよね。私も学生の「探索」の視野を広げるために、いろいろな工夫を授業に凝らしています。  

落合学長 「探究」で専門的なベースを作り、それを活かすためにも広い視野で「探索」を進めていく。そうすると、全然違うように思えることがつながっていく面白さに気づきます。この対談シリーズの第1回目の話題に「好奇心」という言葉がありました。「探究」も「探索」もカギは「好奇心」の強さにあります。私は学生を刺激して好奇心を引っ張り出したいと、いつも思っています。

ところで、今後の通信教育課程はどこを目指していくのでしょうか? 

菱山課程長 前編でお話しした通り、本学の通信教育課程は、教育機会の提供から資格取得を促して社会に貢献する人をつくる方向へと、2010年にシフトチェンジしました。今後は、より質の高い教育者の養成をめざす方向へと進んでいきたいと思っています。となると、今まで以上にきめ細かい指導が必要になります。また、社会の将来像を予測しながら、教材の提供、教育の方法の開発などにも励まなければと考えているところです。 

落合学長 少子化の流れはとどめられませんが、どのような社会になっても優秀な教員は欠かせないですものね。

菱山課程長 現在は少人数学級の動きもあって教員の数を減らす話は出ていません。でも、将来的には教員数が削減されていく可能性があると思います。AI(人工知能)などの技術が入って、あるところまでは機械が教員を代用するようになるかもしれません。しかし、教職という仕事は絶対になくなりません。その部分で、私たちは貢献し続けなければいけないと思っています。 

落合学長 人間の活動には、AIや機械に置き換えられない部分があります。教員の場合、これからは特にどんな能力が求められるようになると菱山先生はお考えですか?

菱山課程長 コミュニケーション能力と視野です。コミュニケーションを通して人間関係ができて、その先に信頼が生まれます。信頼がなければ、教育はできません。視野というのは、学修者と教員の関係にだけでなく、学修者自身が社会という環境に目を配れるかどうかです。現職の先生方にも同じ考えを持っている方々が少なくありません。教員には指導力や授業力が必要です。でも、それは後からついてくるものであり、まずはコミュニケーション能力と広い視野を身につけてほしいと思っています。 

落合学長 おっしゃるとおりですね。では、最後に「学長に聞く」ということで菱山先生から私に質問をお願いします。 

菱山課程長 学長は通信教育に対し、どのようなイメージをお持ちでしょうか? 

落合学長 以前は、高等教育の機会を広く提供するための場所という過去のイメージを持っていました。通信教育という言葉は昔から使われていて、どこか古い印象がありました。しかし、実際には最新のテクノロジーの活用も含め、デジタル化に即応し極めて新しくなってきている。その点を含め、今日、菱山先生から伺ったことは、通学課程の教育を考える上でも、たいへん勉強になる話ばかりでした。 

菱山課程長 それは良かったです。しかし、落合学長が以前持たれていたような古いイメージがなお残っているせいか、実際に入学希望の方に会ってみても、なかなか一歩踏み出してもらえない。そこを乗り越えて新しい通信教育のイメージを作っていくのが、いますぐにでも取り掛かりたい課題だと思っています。 

落合学長 子育てがひと段落した方々、社会でさまざまな経験を重ねてきたみなさんなどが教職の道にスッと踏み出せるような、軽やかなイメージが生まれていくといいですね。ライフロングの学びとは、そうしたもののはずですから。 

菱山課程長 ありがたいことに明星大学は教育界では有名です。伝統もありますし、多くの教員を輩出しています。そこに魅力を感じてもらえるような工夫をしていきたいと思います。 

落合学長 仕事復帰したい人などの潜在的な需要を掘り起こすのは、社会的にも意義深いと思います。ぜひ課題をポジティブに捉え、明星大学の通信教育課程の可能性を広げていっていただければと思います。私も、通学課程と通信教育課程のクロッシングについて、これまで以上に考えたいと思っています。 

本日は、どうもありがとうございました。


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